研究課題
生体内微量元素(バイオメタル)は生命現象と深く関わっている。申請者はこれまでに、バイオメタルが金属であることに着目し、癌化学療法で汎用されるプラチナ系抗癌薬投与後の影響を患者血液検体を用いて検討してきた。その中で、一部のバイオメタルでは血中動態が変動することを明らかにしてきたが、組織中の変動をどのように反映しているかは不明な点が多い。本年度は、研究協力者とともに培養細胞を用い、培養条件の違いによるバイオメタルの変動解析を進めるための基礎的検討を行った。バイオメタルの測定にはICP-MSを用いているが、測定には対象物質のイオン化が必須である。細胞培養液中にはナトリウムイオンや塩化物イオンを含め多くのイオンが含まれており、マトリックス効果によってバイオメタルのイオン化に影響を与え、測定結果が異なる可能性が考えられる。また、予備検討においてサンプルに含まれる成分組成が影響することを確認している。現在、種々の培養条件においてバイオメタルを測定し、マトリックス効果を定量的に評価しているところである。一方で、ICP-MS測定サンプルには前処理として強酸による湿式灰化を行い、サンプルを完全に乾固させた上で、硝酸溶液による再溶解の上、測定してきた。当該方法には前処理にかかる時間が長いため、1日で処理できるサンプル数が少なく、効率的にバイオメタルを測定する上で問題となっていた。申請者らの施設では、マイクロ波処理による前処理装置(マイクロ波試料分解装置)を導入したことから、サンプル測定のスループットの向上が期待でき、次年度は、同装置を用いた分析方法のバリデーションを行い、効率的に研究を進める予定である。
3: やや遅れている
本研究は学内研究協力者の実験協力によって培養細胞実験や動物実験を計画し、実施してきたが、当初予定していなかった学内研究協力者の退職に伴い、研究の遂行に支障が生じた。また、コロナ禍での研究協力機関への入構が制限されており、プラチナ系抗がん剤を処置したマウスにおけるバイオメタルの組織分布解析は十分に進んでいない。なお、新たな実験協力者によるサポートの目処は立っており、引き続き当初予定の計画を進める予定である。一方で、研究計画時点で想定していなかったマイクロ波試料分解装置が導入できたことから、今後はサンプル測定のスループットの向上が期待できる。
導入したマイクロ波試料分解装置を用いて分析方法のバリデーションを行う。また、研究協力機関への入構制限が継続される場合には、培養細胞を用いた実験を中心に当初予定の計画を順次進めていく予定である。
マイクロ波試料分解装置の導入が決定したものの納品が遅れ、必要となる消耗品の確認が遅れ、予定通り購入できなかったため。次年度は納品された装置に対応した消耗品を購入し、研究を遂行する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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