慢性腎臓病(CKD)による糸球体ろ過バリア機能の低下により、通常では糸球体ろ過が制限されているアルブミンが尿細管管腔中へと漏出するようになる。こうしたアルブミンの漏出自体が腎線維化や腎不全につながる要因とされている。しかし、その分子機構は不明な点も多く残されている。申請者はこれまでにアルブミンに結合している脂肪酸が転写因子HIF-1を活性化させること、その脂肪酸としてアラキドン酸が有力であること、アルブミン処理はPGE2生成を高めることなどを見い出してきた。そこで、本研究では尿細管管腔中へのアルブミン漏出に伴う腎線維化の発症過程におけるアラキドン酸カスケードとHIF-1活性化の関連性について明らかにすることを目的とする。本研究課題の3年目となる本年度は、2年目までに得られた知見をさらに掘り下げるため、ヒト腎近位尿細管上皮細胞由来HK-2細胞を用いて、アルブミン誘発HIF-1活性化におけるプロスタグランジントランスポーター(PGT)の関与について検討した。その結果、PGT阻害剤であるブロモクレゾールグリーン(BCG)やスルホブロモフタレイン(BSP)の共存は、HIF-1活性化の指標としたアルブミン誘発GLUT活性上昇を増強する傾向が観察された。しかし、アルブミン誘発HIF-1関連遺伝子及びPGTのmRNA発現、プロスタグランジンE2生成の上昇に対してはいずれのPGT阻害剤も明確な影響はみられなかった。以上より、アルブミン誘発HIF-1活性化には、少なくとも一部、PGTが関与する可能性が示唆されたが、その詳細な分子機構についてはさらなる検討が必要であると考えている。
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