研究課題/領域番号 |
20K07148
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中岡 貴義 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (80549569)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | PETイメージング / 胎盤輸送 / 薬物トランスポーター |
研究実績の概要 |
妊娠中に母体に投与された薬剤は胎盤を経由して胎児へも到達し、胎児毒性を生じる要因となりうるが、妊娠中に薬物療法が必要となるケースは少なくない。胎児の安全を確保しつつ妊婦のQOLを向上させるためには、医薬品の胎児移行性に関する情報の整備が不可欠となる。ポジトロン断層撮影法(Positron Emission Tomography , PET)は低侵襲ながら高い定量性を持つイメージング技術であり、生体内での組織中の薬物濃度をリアルタイムに測定することができる。そこで本研究では、ラットを用いてin vivoでの薬物の胎児移行性を直接測定することで、臨床応用に向けた薬物の胎盤輸送評価系の構築を目指すことにした。 筆者らは近年HMG-CoA還元酵素阻害薬であるpitavastatinをPETプローブ化([18F]pitavastatin)し、ラットおよびヒトにおける有用性を評価してきた。そこで、2020年度は手始めに[18F]pitavastatinをプローブとしてPETイメージングを行い、妊娠ラットにおける胎児移行性の評価を行った。胎齢16.5日のラットにおいては、プローブ集積の指標であるSUV(standardized uptake value)の最大値は約2.5となったが、一方で胎齢12.5日のラットでのSUVの最大値は約1.0となり、2.5倍程度の差が見られた。胎盤では胎児血と母体血との間の物質輸送を制御するために複数のトランスポーター分子が発現しており、Bcrpと呼ばれるトランスポーターがpitavastatinの胎児から母体側への排出を担っていると考えられている。そこで、胎児への[18F]pitavastatinの集積性と胎盤でのBcrpの発現量との間に関連性を検証するために、ウェスタンブロッティングや免疫組織化学による検出系の構築を目指しているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆者らは近年、肝胆系輸送を評価するためのPETプローブとして[18F]pitavastatin の開発を行い、ラットおよびヒトにおける有用性を検討してきた。[18F]pitavastatinはin vivo PETイメージングにおいて代謝的に安定であり、生体内の薬物トランスポーターの活性を定量的に評価できたため、2020年度は[18F]pitavastatinを用いて妊娠ラットにおける胎児への集積性を検証した。 尾静脈から急速静注された[18F]pitavastatinは速やかに胎児へと移行し、その後、急速に胎児から消失する様子をPETにより可視化することに成功した。time-activity curveを作成して[18F]pitavastatinの動態を解析したところ、胎齢16.5日の妊娠ラットでは、投与後30秒で胎児内の集積量は最大となり、SUV(standardized uptake value)値は2.5程度となった。以後は速やかに胎児から排出され、投与3分後にはSUV値は0.3未満まで低下した。一方で胎齢12.5日の妊娠ラットでは、同様に投与後30秒程度で胎児内の集積量は最大になったもののSUV値は1.0程度であり、胎齢16.5日の胎児よりも顕著に集積量が低いことが分かった。胎児への薬物移行には胎盤に発現している薬物トランスポーターの関与が考えられることから、トランスポーターの発現解析のためにウェスタンブロッティングを行い、胎盤におけるBcrpおよびP-gpの発現を確認した。 ここまでは当初計画通りに順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
胎齢によって[18F]pitavastatinの胎児への集積量に差があることが明らかになったため、2021年度はその原因を明らかにしていくことを予定している。胎盤には[18F]pitavastatinの排出を担うと考えられているBcrpなどの薬物トランスポーターが発現しているため、胎齢とトランスポーター分子の詳細な発現解析を行う予定である。当面はウェスタンブロッティングによる定量を行う予定だが、LC/MS/MSを用いたトランスポーターの定量にも取り組む予定である。また、トランスポーターの阻害剤を投与することで[18F]pitavastatinの動態にどのような変化が生じるかの解析を行う予定である。 一方で、PETイメージングによって[18F]pitavastatinの胎児への集積は定量的に評価できているものの、集積と消失が速いため採血によって血中濃度を測定することが難しく、integration plot法などによる解析が困難なことが想像される。そのため、より胎児滞留性の高いプローブの探索も行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に必要な試薬、消耗品類は一通り購入したが、予定より動物購入数、飼育管理料が少なかったため未使用分が生じた。残額が少額なこともあり次年度請求分と合わせて使用する。
|