最終年度は、前年度までに樹立した2種類の高い腫瘍形成能を有するがん幹細胞の機能について詳細な検討を進めた。前年度、免疫染色法によりがん幹細胞マーカーであるALDH1A1の発現が観察されたため、ALDHの酵素活性を利用したAldefluor assayにより、樹立したがん幹細胞におけるALDH陽性細胞の割合をフローサイトメーターで測定することを試みた。その結果、ALDH活性を見出すことができなかった。また、ウエスタンブロット法で発現解析をしても、がん幹細胞株におけるALDH1A1の高発現を確認することができなかった。このことから、免疫染色法によるALDH発現は偽陽性であったと考えられたため、他のがん幹細胞マーカーの発現を検討した。その結果、樹立したがん幹細胞において、既知のがん幹細胞マーカーとして知られているCD44変異体がほとんどすべての細胞表面に発現していることを明らかにした。また、その発現量は、2種類のがん幹細胞株において、親株よりも有意に高いことが示された。さらに、樹立したがん幹細胞は、4T1細胞株と比べてドキソルビシンに耐性を示すこと、MRP1遺伝子やシスチントランスポーターの遺伝子発現量が高いことから、これらの分子の発現が、ドキソルビシンに対する抵抗性の要因となっている可能性を示した。以上より、樹立したがん幹細胞は、in vivoにおける高い腫瘍形成能、既知のがん幹細胞マーカーの発現、ドキソルビシンに耐性を有することが示され、今後、がん幹細胞を標的とした治療法の確立に重要な役割を果たすものと考えられた。
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