研究課題/領域番号 |
20K07162
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
小川 裕子 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (30267330)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | exosome / 唾液 / DPP IV / マクロファージ / 免疫活性化 / 細胞外小胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者が見出したヒト唾液由来のexosome様の細胞外小胞(Exo)による免疫活性化機構を明らかにし、最終的に歯周病自家ワクチン療法への応用を目指すものである。本Exoは、口腔内細菌の成分(LPS)および免疫活性化因子(ジペプチジルペプチダーゼIV;DPP IV)を含有する(LPS/DPP IV-Exoと称する)。本Exoをマウスマクロファージ(Mφ)に添加すると、Mφ活性化の指標とされる一酸化窒素(NO)、IL-1βおよびTNFαを産生するものの、産生量は全唾液(WS)よりも抑制されていた。一方、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現量はWSよりも増加していた。本Exo外層の除去によりNO産生量は増加すること、本Exoによるトール様受容体4(TLR4)ノックアウトマウス由来MφからのNO産生は抑制されることから、LPS/DPP IV-ExoのLPSの結合状態がNO産生能の変化に関与することが考えられた。そこで、LPSに結合する候補タンパク質を選別し、タンパク質同定を行っている。さらに、LPS/DPP IV-Exo本体のタンパク質のプロテオーム解析を行い、LPS等の抗原に結合するタンパク質を選別するための基礎データを得た。 本Exoは口腔内に分泌された後、消化管内に移行すると、外層のムチン5B等が消化酵素により分解されるが、Exo本体は安定に存在している。そこで胃内条件と腸内条件の連続続理を行うと本Exoは可溶化され、構成成分の多くは消化されたが、IgAおよびDPP IVは分解されず、DPPIV活性は保たれていた。 LPS/DPP IV-ExoによりMφは古典的活性化経路で活性化されると考えられるが、本ExoによりMφ活性化が抑制されることは、口腔内における恒常性の維持に関与する可能性がある。Mφ活性化におけるIgAおよびDPP IVの役割の解明は今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はLPS/DPP IV-Exoによる免疫活性化機構の解明を予定していた。当初の予測に反して、本ExoのDPP IVはカベオリン-1とは結合しなかった。一方、本ExoはMφを活性化させ、NOおよびサイトカイン(IL-1β、TNFα)を産生させるが、その産生量はWSより抑制されていた。NO産生に寄与するiNOS発現量はWSよりも増加しているので、本Exoは含有LPSがTLR4を介してiNOSを誘導するものの、NO産生が何らかの理由により抑制されると考えられた。本ExoのLPSの結合状態を調べるため、LPS結合レジンを用いたプルダウンアッセイを行い、LPS結合タンパク質の候補が複数得られた。 さらに本Exoの構成成分の同定を行った。本Exoはゲルろ過クロマトグラフィーと分画遠心を組み合わせることにより、その外層が上清に分離されることを見出したので、外層および本体のプロテオーム解析を行った。外層は主にIgAおよびムチン5Bであったが、本体の構成タンパク質は、今後歯周病菌等の抗原に対する結合タンパク質を同定するための基礎データとして用いる。 本Exoは消化酵素により外層が分解されるが、本体は安定に存在している。そこで、胃内条件と腸内条件での連続消化を行って安定性を検討した。本Exoは腸内条件で添加した胆汁酸により可溶化され、構成成分は消化酵素により分解されたが、IgAおよびDPP IVは分解されずに残存し、DPP IV活性は保たれていることが判明した。以上のことから、本Exoの標的臓器は小腸上部までであること、IgAおよびDPP IVに関してはMφ活性化との関連性の検討が必要であると考えられた。 本年度の研究計画のうち、免疫活性化機構の解明に関しては一部課題が残ったが、構成成分の同定を行ったこと、消化管内での安定性に関する知見が得られたことから、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はLPS/DPP IV-Exoによる免疫活性化機構の全貌の解明を行う。本ExoからはLPS結合タンパク質の候補が複数得られたことから、これらタンパク質を同定する。同定タンパク質は中和抗体等を用いてLPSとの結合能を評価する。LPSとの結合を確認したタンパク質について、本タンパク質をノックダウンしたMφを作製し、LPS/DPP IV-ExoによるNO産生能、サイトカインの産生能を野生型マウス由来Mφと比較し、Mφ活性化への影響を検討する。さらに、NO産生能への影響を調べる。同時にプロテオーム解析から得られた結果を用いて、歯周病菌の原因菌、さらには病原ウイルス等に結合しうるタンパク質を選別し、上記と同様に抗原結合能を検討し、免疫活性化に関与するタンパク質があれば以後のワクチンとしての抗原の候補とする。 LPS結合タンパク質については、歯周病菌(Pg)LPSとの結合能をプルダウンアッセイ等により検討する。同時にプロテオーム解析のデータから得られた本Exoに結合しうる抗原について、結合能を評価する。調製した抗原結合LPS/DPP IV-Exoをラットに経口または経鼻投与し、経時的に外分泌液(唾液、腸液等)を回収し、NO、sIgAおよび炎症性サイトカインの分泌量を測定する。sIgAについては、添加した抗原への結合性をELISAにより検討する。 次にLPS/DPP IV-Exoの体内動態の解析を行う。LPS/DPP IV-Exoのタンパク質および脂質を蛍光標識する。蛍光標識LPS/DPP IV-Exoをマウス、ラット等に経鼻投与し、体内での動態をIVISで解析する。蛍光が検出された臓器を摘出し、細胞の顕微鏡観察等により本Exoの到達する臓器、細胞を調べる。 本研究は唾液を用いるため、新型コロナウイルスについては採取前にPCRで確認を行っている。今後も安全性を確保して研究を遂行する。
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