創傷治癒遅延は、糖尿病患者に見られる合併症の一つであり、難治性である。これまでに高血糖状態の皮膚において HPGDSの発現が誘導されることを見出した。そこで糖尿病マウスにおけるPGD2シグナルが創傷治癒遅延を引き起こしていることを証明するために以下について検討した。まず、HPGDS由来のPGD2産生場所と産生細胞を特定するために、糖尿病マウスの皮膚切片を作製し、HPGDSに特異的な抗体を用い免疫染色を行った。その結果、HPGDSは表皮に存在する細胞に発現しており、ランゲリン陽性細胞に発現していることが分かった。さらに、糖尿病マウスの皮膚におけるPGD2受容体(DP1受容体、DP2受容体)発現についてmRNA発現量をreal-time PCR法により確認した。その結果、DP1受容体mRNAは増加傾向にあり、DP2受容体は有意に増加していた。また、受容体の発現について特異的な抗体を用い確認したところDP1受容体はケラチノサイトに発現が見られた。さらに、DP1受容体アンタゴニストを用い糖尿病マウスの創傷治癒遅延に対する効果を検討した。その結果、部分的に創傷治癒遅延が改善した。また、DP2受容体アンタゴニストでも同様に検討した結果、有意な差は見られなかった。これらの結果から、高血糖の皮膚では、ランゲルハンス細胞によって産生されるPGD2がケラチノサイト上のDP1受容体に作用し、創傷治癒の遅延に関与している可能性があることを示唆された。
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