研究課題/領域番号 |
20K07194
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
江田 岳誉 新潟大学, 医歯学総合病院, 薬剤師 (90772038)
|
研究分担者 |
棗田 学 新潟大学, 脳研究所, 助教 (00515728)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 膠芽腫 / mTOR / AMPK / タンパク合成 / 細胞内飢餓 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、膠芽腫に対する効果的な薬物療法を提示することである。膠芽腫では、早くからEGFR遺伝子増幅をはじめとする複数の遺伝子異常が注目されている。本研究では、このような知見からEGF増殖シグナルの調節に関与するPI3K/Akt/mTORに着眼し、膠芽腫における細胞内情報伝達の破綻を修復するような薬剤のスクリーニングとその薬理作用についての分子メカニズムを探究した。特にmTORは、糖や酸素濃度などの栄養センサーシグナルとしての役割も担うことも知られるため、がんの代謝やリプログラミング、微小環境などの観点から実験計画を組み立て、mTORと腫瘍形成・維持間にあるクロストークの解明に取り組んだ。 がんの代謝、リプログラミング:がんではグルコース要求が著しく亢進している。大量に取り込んだグルコースはミトコンドリア内好気的呼吸よりむしろ嫌気的解糖によって乳酸へと代謝する(Warburg effect)。飢餓時において、がん細胞はどのような代謝様式をとり、異常増殖を維持するのか。がん細胞を制御するうえでの疑問を解明するために、過酷条件を負荷することで細胞内応答を調べた。膠芽腫細胞NGT41に対し、SGLT2阻害剤を用いWST1アッセイを行った。その結果、細胞の増殖は著しく抑制された。この時の細胞内の栄養状態について調べるとAMPKやACCのリン酸化が亢進し、SGLT2阻害剤は細胞内を飢餓に導くことが想定された。また、SGLT2受容体の発現は各種膠芽腫細胞上で確認し、実際に正常細胞と比べると過剰に発現していた。放射標識グルコースを用いた細胞内取り込み実験で、SGLT2阻害剤は、グルコースの取り込みを濃度依存的に抑制することを確認し、SGLT2阻害剤は膠芽腫細胞内へのグルコースの取り込みを抑制することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「がんの代謝」という観点からはわずかながらも研究の進展があった。これまでの実験で複数のヒト由来膠芽腫培養細胞株に対し、SGLT2阻害剤がグルコースの取り込みを調節し、増殖を抑制に関与することがわかった。 次にSGLT2阻害剤によるmTORへの影響について調べたところ、細胞増殖阻止実験の結果と一致するようにしてSGLT2阻害剤はp70S6K, S6のリン酸化を濃度依存的に抑制した。タンパク合成活性についてはSUnSET(Surface sensing of translation)法によって評価した。これは細胞内で新規合成されたタンパク質量を測定する手法である。アミノアシルtRNAと構造が類似するピューロマイシンは、新規合成ポリペプチド鎖に取り込まれるとペプチド鎖が解離するのでこれをピューロマイシン抗体によって免疫学的に検出する。SGLT2阻害剤はピューロマイシンの取り込みを抑制し、タンパク質合成活性を時間依存的に低下した。SGLT2阻害剤が腫瘍増殖を抑制する理由として、mTORC1経路に作用した結果、新規タンパク合成が制御され、抗腫瘍効果を発揮するものと考える。 我々はまた、NGT41細胞を用いてマウスへの異種移植を行い、形成される皮下腫瘍に対するSGLT2阻害剤の抗腫瘍作用について評価した。マウスへのSGLT2阻害剤の経口投与によって、皮下腫瘍の増殖は有意に抑制された。腫瘍の免疫組織染色ではMIB1を指標とする増殖活性や、S6のリン酸化が制御されていた。in vivoの系においても細胞実験と同様の薬効が検証された。
|
今後の研究の推進方策 |
膠芽腫に対する効果的な薬物治療を提示することを目的として研究を進め、これまでに候補薬の抽出、in vitroにおける薬効分析、評価および一部のin vivo実験まで終了した。 SGLT2阻害剤は腫瘍細胞表面に発現するSGLT2を介してグルコースの取り込みを抑制する。その結果、ATP産生が抑制され、AMPK活性化が確認できることから、細胞内はSGLT2阻害剤によって栄養飢餓状態に陥ることが推測される。「膠芽腫とmTOR」では、SGLT2阻害剤が、mTOR下流にあるp70S6、S6 のリン酸化を濃度・時間依存性に抑制し、新規タンパク合成を抑制することが判明した。これはmTORC1が細胞増殖に重要な作用点であることを表している。 SGLT2阻害剤を用いた脳腫瘍の治療実験は、皮下腫瘍のみならず、現在マウス脳内への効果を検証し、治療実験の結果をまとめている。また、現行の標準治療とされるテモゾロミドとの併用実験などを計画、早急に論文として報告をする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験計画はほぼ想定通りに進んでいる。しかし、論文執筆、投稿が科研費助成期間に間に合わせることができず、研究助成をに本年度までに持ち越した。残額は英文校正や追加の動物実験などにも充当する予定である。コロナ禍にて予定通りに学会発表ができず、旅費が残っていることも付記する。
|