膠芽腫に対して摘出術および放射線化学療法が行われるが、予後は不良である。 本研究の目的は、膠芽腫に対する効果的な薬物療法を提示することである。膠芽腫では、早くからEGFR遺伝子増幅をはじめとする複数の遺伝子異常が注目されている。このような背景からEGF増殖シグナルの調節に関与するPI3K/Akt/mTORに着眼し、膠芽腫における細胞内情報伝達の破綻を修復するような薬剤のスクリーニングとその薬理作用についての分子メカニズムの探究を試みた。特にmTORは、糖や酸素濃度などの栄養センサーシグナルとしての役割も担うことも知られるため、がんの代謝や、微小環境などの観点から実験計画を組み立て、mTORと腫瘍形成・維持間にあるクロストークの解明に取り組んだ。 がんではグルコース要求が著しく亢進している。これまでの研究において、細胞に過酷条件を負荷することでその細胞内応答を調べた。膠芽腫細胞NGT41に対し、グルコースの取り込みを抑制することを目的としてSGLT2阻害剤canagliflozinを用いた。その結果、細胞の増殖は著しく抑制された。この時点で細胞内エネルギー代謝について調べるとAMPKやACCの活性化が亢進していた。また、SGLT2受容体は複数の膠芽腫細胞株において過剰に発現していた。放射標識グルコースによる細胞内取り込み実験で、その取り込みはcanagliflozinにより濃度依存的に抑制された。また、飢餓状態がタンパク合成に与える影響についても解析を行った。mTORとその基質S6Kのリン酸化はcanagliflozinによって抑制された。canagliflozinの増殖抑制作用は、膠芽腫細胞上SGLT2を介した細胞内グルコースの取り込みの抑制および翻訳抑制による機構である可能性が示唆された。
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