研究実績の概要 |
悪性胸膜中皮腫はアスベストにより誘発される難治性の胸部悪性腫瘍であり、治療法として外科的切除、化学療法、放射線療法などが行われているが、治療抵抗性であることが多いため、抗体療法などの新規治療法開発が求められている。これまでに我々の研究グループはポドプラニンを標的とする特異的抗体を開発し、その抗体が抗体依存性細胞障害(ADCC)の誘導を介して、悪性胸膜中皮腫細胞株に対して強い抗腫瘍効果を発現することを明らかにしている(J Immunol. 190:6239-6249, 2013; Cancer Sci. 107:1198-1205, 2016.)。一方で、ポドプラニンはリンパ管内皮細胞やⅠ型肺胞上皮細胞などの正常細胞にも発現することが知られており、ADCC を作用機序とする治療抗体では副作用発現が懸念される。本研究では、我々の研究グループが開発した、ポドプラニンのエピトープだけでなくがん細胞特異的な付加糖鎖の両方を認識することでがん細胞のみを選択的に認識するがん特異的抗体(CasMab)の有用性について検討することを目的としている。2022年度は、悪性胸膜中皮腫に対するがん特異的抗ポドプラニン抗体の抗腫瘍効果についてin vitroおよびin vivoの検討を行った。その結果、in vitroの検討において、がん特異的抗ポドプラニン抗体はヒトNK細胞を介してADCCを誘導することが明らかとなった。また、悪性胸膜中皮腫移植マウスモデルに対してがん特異的抗ポドプラニン抗体とヒトNK細胞を投与したところ、有意な抗腫瘍効果が認められた。以上の結果より、がん特異的抗ポドプラニン抗体は、悪性胸膜中皮腫に対する有効な治療法となり得ることが示唆された。
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