研究実績の概要 |
2022年度までに、オキサリプラチンの末梢神経障害に対しては対症療法薬の候補として疎経活血湯が、予防薬の候補としてアミノ酸製剤シスチン・テアニンおよびプロトンポンプ阻害薬が、カペシタビンの手足症候群に対しても、オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害薬が抑制効果を有する可能性が、それぞれ基礎研究と医療情報データベースの解析で明らかとなっている。 特にオキサリプラチン誘発末梢神経障害に対するプロトンポンプ阻害薬の影響に関しては、九州大学病院において2009年1月から2019年12月までにオキサリプラチンの投与を開始した1,180名の患者を対象に過去起点コホート研究を展開していた。 2023年度までにすべての患者のカルテ情報の収集と解析が終了した。糖尿病患者142名を除外した1,038名に関して解析を行った結果、プロトンポンプ阻害薬の併用群において any gradeの末梢神経障害の発現および末梢神経障害によるオキサリプラチンの中止、減量が有意に少ないことが明らかとなった。また、プロトンポンプ阻害薬の種類ごとに解析を行うと、オメプラゾール及び エソメプラゾール併用患者において、末梢神経障害の発現やそれによる治療中止が顕著に少なかった。一方で、同じ制酸剤であるH2ブロッカーやカリウムイオン競合型アシッドブロッカーではこのような影響は見られなかった。さらに、がん種や使用レジメンによる層別解析の結果、膵臓がん以外の患者、XELOX療法以外の患者でPPIの神経障害抑制効果が顕著である可能性が明らかとなった。以上のように、臨床においても、プロトンポンプ阻害薬がオキサリプラチンによる末梢神経障害に対して抑制効果を示す可能性が示唆された。
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