研究課題/領域番号 |
20K07202
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
吉成 浩一 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (60343399)
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研究分担者 |
志津 怜太 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (50803912)
保坂 卓臣 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (30611579)
柿崎 暁 群馬大学, 大学院医学系研究科, 講師 (80344935)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核内受容体 / 新生仔 / 肝臓 / 甲状腺ホルモン / 化学物質 / 発達毒性 |
研究実績の概要 |
申請者らのこれまでの知見から、胎児期や乳幼児期におけるPXRやCARの活性化は、肝成熟や肝機能に影響を与え、二次的に全身の発達に影響を及ぼす可能性が考えられた。そこで本研究では、これら可能性を主にインビボ試験により明らかにすることを目的としている。 2020年度は、まず乳幼仔期におけるCARおよびPXRの活性化の影響を明らかにするために、15日齢の雄性C57BL/6NマウスにCAR活性化物質のTCPOBOP(3 mg/kg)またはPXR活性化物質のPCN(100 mg/kg)を単回腹腔内投与し、3日後に屠殺して肝臓および血液を採取した。定量的逆転写PCR法で肝の各種mRNAレベルを測定したところ、CARおよびPXR標的遺伝子であるシトクロムP450をはじめとする、種々の薬物代謝酵素遺伝子のmRNAレベルはTCPOBOPまたはPCN処置により上昇していた。また、TCPOBOP処置により甲状腺ホルモンの代謝に関わるグルクロン酸抱合酵素のUGT1A1のmRNAレベルも増加していたことから、甲状腺ホルモンシグナルに関わる遺伝子の発現を調べたところ、TCPOBOP処置により低下していた。さらに、ELISA法で血漿中甲状腺刺激ホルモンレベルを測定したところ、TCPOBOP処置によるホルモンレベルの増加が確認された。 次いで、より長期的な影響を明らかにするために、TCPOBOPおよびPCNを15日間隔で2回腹腔内投与した。経時的にマウスの体重を測定したところ、TCPOBOP投与により体重増加率は明らかに低下した。一方、PCN投与はそのような影響を示さなかった。 以上の結果より、乳幼児期におけるCARの活性化は、UGT1A1等の発現亢進を介して甲状腺ホルモン代謝を亢進し、そのシグナル抑制に伴う成長障害を引き起こす可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳幼仔期におけるCARおよびPXRの活性化の影響を解析し、CAR活性化物質の曝露により、甲状腺ホルモンの代謝亢進とそれに伴う甲状腺ホルモンシグナルの減弱、さらには成長抑制が起こる可能性を見出した。これまでに成熟前の動物におけるCAR活性化に関しては、薬物代謝酵素誘導作用を示すことは明らかになっていたが、その他の作用は不明であった。本研究成果は、乳幼児期におけるCARの活性化は正常な発育に悪影響を及ぼす可能性を示しており、投与量や投与タイミング、活性化物質の種類による影響、より長期的な影響、さらには作用機序のさらなる解析が必要ではあるが、CAR活性化物質の遅発性影響に関する重要な発見であると考えている。 一方、CARとPXRは構造的および機能的に非常に類似した核内受容体であり、特に薬物代謝酵素の発現誘導には協調的に働いていると考えられている。しかし、本研究ではPXR活性化物質ではCAR活性化物質で認められたような甲状腺ホルモンシグナルに対する影響は認められなかった。この違いの原因は明らかではないが、本研究では典型的なPXR活性化物質であるPCNのみしか用いておらず、他の活性化物質を用いた解析も必要と考えられる。 研究全体としては、CAR活性化による甲状腺ホルモンシグナルへの影響が顕著で、毒性学的に非常に重要であると考えられたことから、2020年度はその観点からの研究を中心に進め、有益な知見が得られた。一方で肝細胞増殖への影響の解析が十分に進んでいないことから、次年度はその観点からの解析も進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、乳幼児期におけるCAR活性化が甲状腺ホルモンシグナルを減弱させ、それに伴う成長障害を引き起こす可能性が示された。そこでこの機序を明らかにする一環として、得られた肝サンプルを用いてトランスクリプトーム解析を行い、乳幼児期におけるCAR活性化による各種遺伝子の発現レベルの変動を網羅的に解析する。また、肝臓サンプルのHE染色・免疫組織染色によって肝細胞肥大や肝細胞増殖についても評価し、肝細胞増殖に関する影響を明らかにする。そして、より長期間飼育することで、自然発症による各種疾患(脂質代謝異常、エネルギー代謝異常としての糖尿病等、甲状腺ホルモン機能障害等)、ならびに肝がんや甲状腺がんに対する影響を解析する。 他方、妊娠マウスにCARまたはPXR活性化物質を腹腔内投与し、同様の解析を行うことで、胎児期におけるCARおよびPXR活性化の影響を解析する。 そして、これら野生型マウスで得られた知見をもとに、CAR又はPXR欠損マウスを用いて同様の解析を行い、活性化物質投与による影響の両核内受容体の寄与を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、年度初めの研究活動が制限され、若干の遅れが生じたため。
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