研究実績の概要 |
肝臓に発現するOATP1B1/1B3はアニオン性薬物の肝取り込みを担っており、多くの薬物間相互作用(DDI) に関与することから創薬および臨床で重要視されている。本研究では、DDIを予測するためのバイオマーカーになり得るOATP1B内在性基質の一つ、ヘム生合成の中間代謝物であるコプロポルフィリン(CPs)に着目し、精緻な生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを構築することでDDI予測に役立てる方法論を確立する。令和4年度までに、ヒトの臨床データをPBPKモデリングとクラスターガウスニュートン(CGNM)法で解析した結果を報告(Yoshikado et al. CPT-PSP 2022)したことから、令和5年度は前臨床から臨床への橋渡しに必要な知見を得るために、複数の動物実験データ(CP-I血漿中・肝臓内濃度および尿中・胆汁排泄量)をPBPKモデルで解析した。まずはラットを用いて、肝臓からのCPsの消失に関わるMRPsの寄与を明らかにすることを試みた。SDラットおよびMRP2欠損ラット(EHBR)にCPsを定速静注した体内動態およびマスバランス試験結果をPBPK-CGNM解析したところ、EHBRにおいてはMRP3, 4による血管側排出クリアランスの上昇が示唆されたが、反応性には個体差が存在した(第67回日本薬学会関東支部大会)。続いて、ヒトと近いCPs体内動態を示すと考えられるカニクイザル報告値のPBPK-CGNM解析を試みた。推定されたパラメータのうち、肝固有クリアランスとCP-Iの生合成速度はヒトに比べて数倍高く、種差の存在が示唆された(日本薬学会第144年会)。実際に肝細胞を用いた実験でヒトよりも大きい肝取り込みクリアランスが観測された。以上の成果をもとに、ヒトにおいてCPsを基にしたDDI予測の観点で注意を要するメカニズム・種差の存在等を提唱すべく、論文化を進めている。
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