研究実績の概要 |
PARP (poly ADP ribose polymerase) は細胞内に存在する酵素であり、損傷したDNA鎖を修復する。このPARPを分子標的とし、阻害するPARP阻害薬の有用性が、がん治療において確認され、日本でもがん治療薬として承認されている。PARP阻害薬は分子標的薬であり、従来の抗がん薬と比べ副作用が少ないと期待されており、現在数多くのPARP阻害薬が合成・開発されている。通常、PARP阻害薬は特定のDNA修復異常を示すがんに有効であるが、PARP阻害薬と従来の抗がん薬を併用することも有効であると考えており、抗がん薬の作用機序におけるPARPと活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS)、並びに抗がん薬とPARP阻害薬との関係を明らかにすることが本研究課題の目的である。今年度は、抗がん薬としてアントラサイクリン系抗がん薬のPirarubicin (THP)を用い、THPの細胞毒性に対するPARP阻害薬の影響を検討した。 PARP阻害薬としてOlaparibを用い、細胞としてヒト前骨髄性白血病細胞HL-60を使用した。細胞生存率はPI (propidium iodide)を用い、Tali Image-Based Cytometer (Invitrogen) で測定した。細胞死のマーカーとして、ミトコンドリア膜電位、細胞内ROS、Caspase-3/7活性を測定した。 THP(濃度:0.5, 1.0, 2.0, 5.0, 10 μM;反応時間:4 h)は、HL-60細胞に対し細胞生存率を低下させ、この低下はOlaparibの影響を受けなかった。一方、THP(濃度:0.05, 0.1, 0.2, 0.5 μM;反応時間:24 h)は、HL-60細胞に対し細胞生存率を低下させ、この低下はOlaparibにより抑制された。また、THPによるミトコンドリア膜電位の低下もOlaparibによって抑制された。さらに、細胞内ROSの上昇、Caspase-3/7活性の上昇についてもOlaparibにより抑制された。Olaparibによる効果は、Olaparibがミトコンドリアに対する保護作用を有するものであると考えられるが、さらなる検討が必要である。
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