研究課題
薬物の治療効果や副作用の個人差の原因のひとつとして、薬物を分解する酵素や薬物輸送担体の遺伝子変異が知られている。このような遺伝子変異に基づいて薬物の種類や投与量を決定するファーマコゲノミクス (PGx) に関して、数多くの臨床研究が行われているものの、臨床での応用は十分に進んでいるとは言い難い。そこで本研究では、当施設で収集しているPGxデータベースを活用し、実臨床における種々の薬物の治療効果や副作用に与える遺伝子多型の影響を解析する。特に本研究では、鎮痛薬トラマドールや免疫抑制薬アザチオプリンを対象として、実臨床の患者を対象としたPGx検査データベースを用いた解析を行い、日本人における個々の患者に合わせた投与方法の確立を目指している。初年度である今年は、鎮痛薬トラマドールについて、PGxデータベースと診療録のレトロスペクティブ解析を行い、日本人で変異割合の高い遺伝子変異により、治療効果に差が生じる可能性を見出した。これらの結果を踏まえて、肝がん切除後患者を対象とした薬物動態/薬力学/薬理遺伝学的研究に着手し、患者の導入を進めている。この研究では、遺伝子多型だけでなく、薬物の血中濃度や治療効果についても同時解析を行うため、トラマドール及びその主要代謝物の血中濃度測定法の構築も並行して進めている。他にも、免疫抑制薬アザチオプリンについて、PGxデータベースと診療録のレトロスペクティブ解析を行うための倫理審査申請を行い、承認が得られている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、PGxデータベースと診療録に基づくレトロスペクティブ解析により一定の成果が得られていることに加え、それらの結果に基づいた新規研究についても着手できていることから、概ね順調に進展していると考えられる。
当初の計画通り、現在実施しているPGxデータベースと診療録に基づくレトロスペクティブ解析とプロスペクティブ観察研究を進める。現時点では、目標症例数の確保に支障はないものの、不測の事態により目標症例数に到達できない場合には、可能な限り収集できた情報での解析を行うことで確実に成果に結びつく研究計画を遂行する。
次年度使用額として716,577円の繰越を行っている理由として、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、予定していた一部の検体収集に遅延が生じたことが挙げられる。遅延している検体の測定については、2年目以降に随時実施予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Biol. Pharm. Bull.
巻: 44 (6) ページ: 1-9
Biochem Biophys Res Commun
巻: 554 ページ: 151-157
10.1016/j.bbrc.2021.03.107 0006-291X