研究課題/領域番号 |
20K07217
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水谷 祐輔 北海道大学, 総合IR室, 准教授 (40646238)
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研究分担者 |
三上 剛和 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (80434075)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオンコンダクタンス顕微鏡 / 細胞質突起 / 機械学習 / 画像解析 |
研究実績の概要 |
本研究は,走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を用いて取得できる生きた細胞の頂上膜面の細胞質突起の画像からダイナミクスを解析し,そのダイナミクスと細胞機能の関係性を解明することを目的としている。そのダイナミクスの解析には,本研究を通して構築する機械学習を用いたコンピュータ支援構造判別評価システムを使用し,困難さを多く含む画像判別を自動化することでより効率的におこなう事を並行して実施するものである。 取り組んでいる課題を以下に示した。 1. 画像データセットの収集と機械学習用データを用いたシステムの構築: 申請者は現在までに各種実験を通して撮像したSICM像を所有し,継続的に画像データセットの収集および本研究に学習データとして用いるデータセットを選別しタグ付け作業をおこなった。また,システムの構築は,フリーウエアで構築を進め,テスト画像データ等を処理させるなど適したものの選定をおこない,機械学習の作業環境整備を進め,識別アルゴリズムの作成に着手した。 2. 各細胞の細胞質突起の構造観察: SICMを用いた画像取得は,探針であるガラスピペットの形状や細胞の状態に依って適した画像取得に関するパラメータは異なる。本研究では,細胞質突起の観察における各種条件を精査することで,現状において適した画像取得パラメータを見出した。 3. Tet受容体を恒常的に発現する細胞の樹立: 遺伝子導入により細胞質突起構造の遷移状態をコントロール可能なCa9-22細胞の作製を試みた。当初はTetの発現を確認したが,発現していても数日で発現が消失することが明らかとなった。そのため,非メチル化プロモーターに組み換えた発現ベクターを作製し,細胞にトランスフェクションおよびセレクションを行うことでTet受容体恒常発現細胞(TetR-Ca9-22 cells) の樹立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
機械学習を用いた構造判別評価システムを構築に関しては,学習データ用に準備したSICM像のデータセットにより機械学習を実行し,細胞表面にある細胞質突起構造識別のアルゴリズムの作成に着手し,着実に進めている。 また,細胞質突起の性状が異なる状態およびその遷移過程の評価をおこなうために用いる細胞の作製にも着手し,進捗している。当初,Tet受容体を恒常的に発現する細胞の作成を行ったが,発現が不安定であり,安定化細胞の樹立が出来ていなかった。その原因として,Tet受容体の発現の消失はプロモーターのメチル化によるサイレンシングと考えられたため,アザシチジン処理で脱メチル化した。その結果,Tet受容体の発現が復活したため,次に非メチル化プロモーターに組み換えた発現ベクターを作製し、細胞にトランスフェクションし,G418による薬剤セレクションによりTet受容体恒常発現細胞(TetR-Ca9-22 cells) の樹立に至った。ただし,コントロール細胞用としてTet受容体応答プロモーターにGFPを接続した発現ベクターによる細胞を作成したが,テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンによりGFP発現の可逆性を確認してみたところ,可逆性は認められなかった。よって,対応中である。 そのため,代替として分化誘導をするマウスマクロファージ由来Raw264細胞を用いることを考え,分化誘導の過程における細胞質突起が本研究に適したターゲットであるか検討し,形状観察を開始した。 これらを総合して,計画全体としてはやや遅れての進捗となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究課題を滞りなく進めていくためには,SLPIの発現の ON/OFFがおこなえるTet受容体を恒常的に発現するCa9-22細胞の作製を引き続き進め,可能な限り早い段階での安定化細胞の樹立が重要である。コントロール細胞用の薬剤セレクションにはHygromycinを用いているが,GFP発現の可逆性が認められない原因としてHygromycin耐性遺伝子のプロモーターが干渉していると考えられる。そのため,薬剤セレクション用ベクターとTetR-pro-GFPベクターをコトランスフェクションすることで改善できるか検討し,対応する予定である。 また,代替として研究に適したターゲットとなる可能性のあるマウスマクロファージ由来Raw264細胞の検討を並行的に進め,LPS(Lipopolysaccharide)や二本鎖 RNA のPoly(I:C)による分化誘導を進め,本研究課題に適した培養条件を見つけ,SICMによる画像取得を進める。 さらにシステム構築に関しては,細胞表面にある細胞質突起構造識別のアルゴリズム作成を目指し,作成後に結果を比較検討する。その上で引き続き,適宜データセットの追加や各パラメータの調整をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は2つある。1つ目は,当初の計画通り,機械学習を用いた構造判別評価システムの構築を進めており,細胞質突起の性状が異なる状態およびその遷移過程の評価をおこなうために用いる細胞の作製にも着手している。しかしながら研究を進めていく中で,システムを本稼働するためのメインPCの決定はアルゴリズム作成後に決定することでより適した仕様とできると考え,購入を見送ったものである。また2つ目は,共同研究先へ3, 4ヶ月に1回ほどの頻度で訪問し,研究分担者と密に連携し本研究を進めることを計画していたが,コロナ禍の影響で昨年同様に往来ができず,旅費の費用が発生しなかったことに依る。以上の理由で,次年度使用額が生じた。 今後,本研究を進めていき,システムを本稼働するためのメインPCの最適な仕様が確定し次第,購入をおこなう。また,Tet受容体恒常発現の安定化細胞の樹立に関する取組みに挑むため,遺伝子ベクター作成,導入,さらにマクロファージ由来細胞の分化誘導の最適化などにともなう新規の物品・消耗品の購入をおこなう。コロナ禍が収束し,往来が従来通りになれば研究分担者とより効率的に研究を進めることを計画している。
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