研究課題/領域番号 |
20K07218
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
串田 良祐 東北大学, 医学系研究科, 助教 (10707003)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Muse細胞 / 胎児付属物 / 臍帯 |
研究実績の概要 |
Multilineage-differentiating Stress Enduring cell (Muse細胞)は生体組織に存在する腫瘍性を持たない多能性幹細胞である。一般的に多能性幹細胞はナイーブ型とプライム型に分類することができ、成体組織由来Muse細胞はプライム型の多能性幹細胞であると想定されているが、胎児付属物である臍帯は幼弱な組織であるため、臍帯由来Muse細胞は成体組織由来Muse細胞と比べ、より未分化なナイーブ型の幹細胞に近い状態であると考えられる。本研究では未解明である臍帯由来Muse細胞の多能性制御機構の解明を目的としている。 本年度は以下3項目を行った。 (1)ヒト臍帯由来Muse細胞の生殖細胞系列への分化誘導を試みたところ、臍帯由来Muse細胞ではBlimp1やNanos3などの始原生殖細胞マーカーの発現が認められ、生殖細胞系列への分化能を有する可能性が認められた。一方、骨髄由来Muse細胞ではこれらのマーカーの発現が認められないことから、ヒト臍帯由来Muse細胞がナイーブ型の幹細胞に近い性質を示すことが示唆された。 (2)RNA-seqにて骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞の遺伝子発現の差異を網羅的に解析したところ、臍帯由来Muse細胞で特異的に発現している因子を同定できた。この因子をshRNAにて発現を抑制したところ多能性因子の発現が低下したことから、臍帯由来Muse細胞の多能性を制御している可能性が示唆された。 (3) 骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞からゲノムDNAを回収し、Bisulfite処理した後、次世代シーケンサーを用いて網羅的にDNAメチル化の状態を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進捗状況は、 (1)ヒト臍帯由来Muse細胞の生殖細胞系列への分化誘導を試みたところ、臍帯由来Muse細胞ではBlimp1やNanos3などの始原生殖細胞マーカーの発現が認められ、生殖細胞系列への分化能を有する可能性が認められた。一方、骨髄由来Muse細胞ではこれらのマーカーの発現が認められないことから、ヒト臍帯由来Muse細胞がナイーブ型の幹細胞に近い性質を示すことが示唆された。 (2)RNA-seqにて骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞の遺伝子発現の差異を網羅的に解析したところ、臍帯由来Muse細胞で特異的に発現している因子を同定できた。この因子をshRNAにて発現を抑制したところ多能性因子の発現が低下したことから、臍帯由来Muse細胞の多能性を制御している可能性が示唆された。 (3) 骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞からゲノムDNAを回収し、Bisulfite処理した後、次世代シーケンサーを用いて網羅的にDNAメチル化の状態を解析した。現在、解析を進めており、臍帯由来Muse細胞と成人組織由来Muse細胞の違いについて明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は次の4項目を進める予定である。 (1) ナイーブ型の多能性幹細胞は造血系細胞への分化能を示すため、ヒト臍帯由来Muse細胞の造血系細胞への分化能を明らかにするために、これまで報告されているES細胞やiPS細胞から造血系細胞への分化誘導を参考にサイトカインを用いてヒト臍帯由来Muse細胞を用いた造血系細胞への分化誘導を行う。また比較対象として骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞で造血系細胞への分化誘導を行う。 (2) 骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞のsingle-cell RNA-seqを行い、既報のヒト初期胚のデータと比較して、臍帯由来Muse細胞の特性を明らかにする。 (3) 胎盤機能不全モデルの作成が困難であったため、造血系細胞への分化能を放射線照射マウスを用いて、ヒト臍帯由来Muse細胞の造血系細胞への分化能をin vivoで確認する。生体内での移植細胞の動態解析のために、人工酵素であるAkalucを導入した臍帯由来Muse細胞を移植し、一定期間後に人工基質であるAkaLumineを投与し、in vivoおよびex vivoイメージングにより生体内での生着・生体内動態を定量的に解析する。また、骨髄、胸腺、脾臓、リンパ節及び血中でのMuse細胞の分化を造血系マーカーを用いてFACSにて解析する。 (4) 骨髄、皮膚、脂肪、臍帯由来Muse細胞のWhole genome bisulfate sequenceの解析を進め、臍帯由来Muse細胞と成人組織由来Muse細胞の違いについて明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度行う予定だった胎盤機能不全モデルの作成が困難であり、動物傷害モデルの変更が必要となったため、in vivoでの解析に必要な試薬、物品の購入を行わなかった。次年度では動物モデルの作成後、in vivoでの解析に必要な試薬等を購入し、研究を遂行する。
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