研究実績の概要 |
脊椎動物の甲状腺の起源と進化に関する分子的理解を進めるため、下等脊索動物ホヤの内柱に着目し、進化発生学的な研究に取り組んだ。本年度は、予備的研究を通じて進めてきたワカレオタマボヤ内柱における甲状腺関連遺伝子(Nkx2-1, FoxE, TPO, Duox)と粘液タンパク質関連遺伝子(vWF様)の発現を、in situハイブリダイゼーション法および組織化学染色法を組み合わせて解析した。また、これらの遺伝子群の発現制御関係を、甲状腺関連転写因子(Nkx2-1, FoxE)のノックダウン個体を用いて解析し、その成果を国際誌Developmental Biologyに投稿した。この投稿論文は査読による修正指摘を受けたため、より詳細な遺伝子発現および発現制御に関する解析結果を追加し、再投稿を行った。 一方、カタユウレイボヤ内柱の形成過程(変態期から初期幼若体期)を用いた研究では、甲状腺関連遺伝子(Nkx2-1, FoxE, Pax2/5/8, TPO)および粘液タンパク質関連遺伝子(vWF様, CiEnds1)の発現動態解析を進展させ、Pax2/5/8の遺伝子発現動態を新規知見として日本動物学会関東支部第73回大会で発表した。 また、ホヤ内柱における粘液タンパク質(vWF様)をコードする遺伝子の分子進化と発現進化を明らかにするため、ホヤ内の異なる目(腸性目と壁性目)間での比較発現解析を行った。腸性目ユウレイボヤと壁性目アカボヤのvWF様遺伝子を新たに同定・単離し、内柱の分泌領域におけるvWF様遺伝子群の比較発現解析を、in situハイブリダイゼーション法を用いて行った。その結果、vWF様遺伝子のオーソログ関係とその発現パターンは必ずしも共有されてはいないが、機能適応的な発現を示すことがわかり、その知見を日本動物学会関東支部第73回大会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、予備的知見をもとに尾索類2種(ワカレオタマボヤ、カタユウレイボヤ)に着目し、甲状腺関連転写因子(Nkx2-1, FoxE)の機能解析を進めることを計画していた。ワカレオタマボヤを用いた解析においては、ノックダウンによって遺伝子機能阻害を行った個体を用い、内柱細胞の分化や、甲状腺関連および粘液タンパク質分泌関連の遺伝子群の発現への影響を解析した。これらの研究成果は計画通り本年度に論文としてまとめ、国際誌Developmental Biologyに投稿した。この投稿論文は、査読による修正指摘を受けたため、要求された解析結果を加えて、再投稿を行った。 一方、カタユウレイボヤを用いた解析においては、ノックアウトによって遺伝子機能阻害を行った個体を用いて、内柱の形態形成への影響や、甲状腺関連および粘液タンパク質分泌関連の遺伝子発現への影響の解析を進展させた。本年度はまだ研究成果としてまとめる段階にはないが、ワカレオタマボヤとカタユウレイボヤで共有される遺伝子発現制御システムの存在、カタユウレイボヤで独自に獲得された形質と遺伝子発現制御システムの存在など、内柱/甲状腺の新しい進化シナリオ構築において矛盾しない研究知見が得られつつある。 また、内柱における粘液タンパク質分泌関連遺伝子(vWF様, CiEnds1)の解析においては、分子進化・発現進化・発現制御進化に着目した研究を進展させた。本年度は、新たに腸性目ユウレイボヤと壁性目アカボヤのvWF様遺伝子を同定・単離し、異なる目のホヤ間で比較発現解析を行った知見を、国内学会で発表した。 このように、現在のところ当初の計画に沿った研究進捗と成果発表を行えていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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