研究課題/領域番号 |
20K07221
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小笠原 道生 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00343088)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 甲状腺 / 内柱 / 遺伝子発現 / 発現制御 / 進化 / ホヤ / 消化管 |
研究実績の概要 |
甲状腺の起源と進化の分子的理解を深めるため、下等脊索動物ホヤの内柱で発現する甲状腺転写因子(Nkx2-1, FoxE)に着目し、その遺伝子発現制御メカニズムの解明に取り組んだ。本年度はまず、国際誌Cell and Tissue Researchに投稿し修正指摘を受けていたカタユウレイボヤ内柱の論文に関する追加実験を行い、修正投稿を行った。その結果、論文は受理されるとともに、本研究において示したNkx2-1とFoxEのノックアウト表現型の写真が、雑誌の表紙を飾るに至った(Cell and Tissue Research, 2022, 390:189-205)。また、この論文内容を、ホヤNBRPのオンラインセミナーで紹介した。 一方、近年公開されたカタユウレイボヤ組織/器官RNAseqのデータ(松原ら, 2021, PLOS ONE)を独自に解析すると、甲状腺/内柱関連遺伝子Nkx2-1が消化管領域の一部でも発現していることがわかったため、咽頭形質である甲状腺/内柱の理解には、消化管全体の領域性・機能配置を含めた俯瞰的理解が有用であると考えた。そこで、消化管における吸収・飲作用・食作用・免疫関連遺伝子群の発現をin situハイブリダイゼーション法を用いてプロファイリングし、その知見を日本動物学会 第93回早稲田大会で発表した。その上で、カタユウレイボヤ消化管の吸収系遺伝子群の機能領域的配置に関する論文1報と、消化管の前後軸に沿った機能領域形成の可塑性に関する短報1報を、それぞれCell and Tissue Research誌に投稿した。 また、カタユウレイボヤ内柱論文の研究過程で明らかになってきたTPOの内柱以外での発現に関しても、内柱/甲状腺以外のTPO機能が変態期の間充織細胞にあることを、日本動物学会 第93回早稲田大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず、修正投稿指摘を受けていたカタユウレイボヤ内柱の論文についての追加実験を行った。この修正作業中に他の研究グループから円口類の甲状腺/内柱の研究論文(高木ら, 2022, BMC Biology)が発表されたため、この知見を含めて考察を充実させて修正投稿し、受理・出版に至った。この円口類の甲状腺/内柱の知見は、本研究課題の後半で予定していた計画と一部重なっていたため、本研究課題の研究計画の調整が必要となった。また、当初計画していた内柱のRNAseq解析に関しても、カタユウレイボヤの組織/器官別RNAseq解析論文(松原ら, 2021, PLOS ONE)が発表されたことから、研究重複を避けて有機的に展開するための研究調整を行った。 具体的には、松原らによるRNAseqデータと論文発表後に更新されたカタユウレイボヤゲノムの最新アノテーションファイルを使用してTPM値を独自に算出し、内柱/甲状腺関連遺伝子群のRNAseq解析を行った。その結果、Nkx2-1が内柱だけではなく、胃でも明らかに、さらには消化管領域の一部領域でも発現している可能性があることがわかった。そこで、咽頭形質である甲状腺/内柱の機能形態成立の理解には、消化管全体の機能領域分布の理解が必要であると考え、消化管における消化・吸収・飲作用・食作用・免疫関連遺伝子群の発現プロファイリングをin situハイブリダイゼーション法を用いて行い、その知見を日本動物学会第93回大会で発表するとともに、論文2報をCell and Tissue Research誌に投稿した。 このように、国内外の研究者の研究報告に応じて研究を調整してはいるものの、大枠としては当初の計画の方向性を保っており、柔軟に発展させながら成果発表を行えていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究は、おおむね当初の研究計画に沿って進めることができている。今後も甲状腺や内柱の発生や機能に関連する分子に着目し、その発現と機能解析を進めながら進化発生生物学的考察を深めていくことに変わりはない。これまでに発表してきた研究論文および本研究課題で発表した研究論文への着目度は徐々に高まってきており、国内外の研究グループ、特に中国の研究グループによる引用とMDPI誌上でのスピーディーな成果報告が目立ってきている。これは、本研究課題が扱う研究領域や研究の方向性が国内外で重要視されていることを意味しているものの、本研究課題の今後の研究計画と重なったり、先行される部分も出てきている。特に大規模RNAseq解析に関しては、潤沢な資金をもとにした中国のプロジェクトに優位性があり、今後も量産的な研究報告が続くと思われる。そこで本研究課題においては、同様の解析を競争的に行うのではなく、本研究課題が独自に得てきた機能形態学的知見を駆使しながら、独創的な研究展開を行う方向性で研究計画を調整しながら発展させていく。 本年度に発表された円口類の甲状腺/内柱の研究論文(高木ら, 2022, BMC Biology)は、甲状腺と内柱が必ずしも斬新的な進化関係にないことを指摘した点において本研究課題が念頭に置いてきた進化コンセプトと一致し、本研究課題の今後の展開コンセプトをサポートする知見となっている。今後も国内外の研究知見を適時的に取り込みながら、本研究課題において独自に進めている「内柱以外での甲状腺関連遺伝子の発現と機能」や「内柱/甲状腺関連遺伝子群の多面的な発現と機能」の理解をさらに推し進めることにより、「脊椎動物の消化管派生物の進化」と「内胚葉上皮の可塑性と適応的機能形態進化」を統合的に理解していく。
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