甲状腺の起源と進化の分子的理解を深めるため、甲状腺の相同形質と考えられている内柱に着目し、尾索類(オタマボヤ、カタユウレイボヤ)の内柱/甲状腺関連遺伝子群の発現制御メカニズムの研究(令和2~3年度)を論文2報に掲載し、カタユウレイボヤの消化管全体にわたる機能形質の領域的配置・分子的背景の俯瞰的理解(令和4~5年度)を進めた。特に令和5年度は、カタユウレイボヤの外分泌消化・吸収・飲作用・食作用・免疫関連遺伝子群の発現プロファイリング結果(RNA-seqおよびin situハイブリダイゼーション)をもとに、尾索類ホヤ消化管における「分泌・吸収機能領域の重複形成」を指摘し、論文2報の掲載(Cell and Tissue Research誌)、日本動物学会第94回山形大会での2演題発表(シンポジウム1題、口頭発表1題)、NBRPカタユウレイボヤ主催論文オンラインセミナーでの紹介を行った。また、甲状腺関連遺伝子の内柱以外での発現と機能の理解を進め、内柱/甲状腺関連転写因子Nkx2-1が胃腸管の分泌上皮でも発現することを発見するとともに、甲状腺ペルオキシターゼ(TPO)遺伝子が内柱以外の咽頭上皮や間充織細胞でも発現すること、チオウレアによるTPOの機能阻害が原索動物(ホヤ、ナメクジウオ)の粘液シート形成不全を引き起こすことなどを、日本動物学会関東支部第74回大会で2演題(ポスター)として発表した。さらに、下等脊索動物が獲得した形質の分子的背景の理解をシングルセルレベルで展開するため、頭索類ナメクジウオ脊索のscRNA-seq研究(基礎生物学研究所、OISTとの共同研究)に参画し、脊索関連遺伝子群の発現をin situハイブリダイゼーション法を用いて明らかにし、論文1報の掲載(DevelopmentalBiology誌)に至った。
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