研究課題/領域番号 |
20K07225
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 厚 広島大学, 両生類研究センター, 准教授 (20314726)
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研究分担者 |
竹林 公子 (鈴木) 広島大学, 両生類研究センター, 研究員 (00397910)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自閉症 / 神経形成 / 誘導因子シグナル |
研究実績の概要 |
自閉症は、社会性障害などを特徴とする発達障害群であり、脳の構造と機能の異常が基礎にあると考えられる。ヒトの遺伝学的解析や変異マウスの解析が始まっているが、その発症機序はよく分かっていない。研究代表者らは、神経発生学的解析に強みを持つツメガエルの神経板に局在するキナーゼとしてClk2を単離し、Clk2が神経形成に重要な誘導因子シグナルを制御して神経誘導を引き起こすことを2019年に論文発表した。最近、哺乳類のClk2が自閉症治療薬の創薬ターゲットになることが示され、Clk2キナーゼ経路の機能解析が早急に必要である。本研究では、Clk2キナーゼ経路の神経形成における役割を解析し、Clk2キナーゼ経路の破綻が脳形成異常を発症する機構を解明する。 前年度までに、Clk2と協調して神経形成を制御する候補遺伝子としてClk1とClk3を同定することに成功している。今年度は、Clk1, Clk2, Clk3のそれぞれに特異的なアンチセンスモルフォリノオリゴを合成してツメガエル初期胚に顕微注入することで、初期発生過程における機能阻害実験をおこなった。その結果、Clk1, Clk2, Clk3阻害の全てにおいて頭部と体軸形成に異常が見られ、特にClk3の阻害時に強い表現型が得られた。Clk3阻害胚についてマーカー遺伝子の発現を定量したところ、複数の神経マーカー遺伝子の発現が低下しており、Clk3は神経形成に必須であることが分かった。これまでの研究で、Clk3は神経胚期に発現レベルが急速に上昇し、脳・脊髄などの神経系に限局して強く発現すること、およびClk3の過剰発現はClk2と同等の神経誘導作用を示すことが分かっている。したがって、生体内では主にClk3とClk2が協調して神経形成を制御し、自閉症の発症に寄与する可能性が示唆された(2021年に論文発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脊椎動物では、Clk2のパラログとしてClk1, Clk3, Clk4の存在が示唆されている。ツメガエルゲノムおよび遺伝子発現のデータベースを検索した結果、Clk1とClk3がClk2と協調して神経形成を制御している可能性が考えられた。そこで、各発生ステージ別に収集したツメガエル胚のcDNAを用いて、Clk1とClk3の時期特異的な発現パターンを詳細に調べたところ、Clk1とClk3は母性mRNAとして発現しており、神経胚期以降に発現レベルが急速に上昇することが分かった。次に、RT-PCR法によって完全長のClk1, Clk3 cDNAを単離した後、各発生ステージで固定したツメガエル胚を用いてホールマウントin situハイブリダイゼーション法をおこなった。その結果、Clk1とClk3は、Clk2と同様に原腸胚期において主に背側の予定神経外胚葉に発現した後、神経胚期から尾芽胚期にかけて脳・脊髄などの神経系に限局して発現していた。また、RNA-seqデータも考慮するとClk3はClk1より発現レベルが高いことが推察された。次に、Clk1とClk3を原腸胚期以降に限定して過剰発現するために、グルココルチコイド受容体と融合させた誘導型Clk1およびClk3を作製した。このツールを用いてツメガエル胚における過剰発現実験をおこなうと、Clk3がClk2と同等の強い神経誘導作用を示した。さらに、Clk1, Clk2, Clk3のそれぞれに特異的なアンチセンスモルフォリノオリゴを用いて機能阻害を試みたところ、Clk3が神経形成に必須であることが分かった。以上のことから、ツメガエルの初期発生過程においてClk3は強い神経誘導活性を持ち、Clk2と協調して神経形成に重要な役割を果たすことが示唆された(2021年に論文発表)。したがって、おおむね研究は順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
Clk3以外にも、Clk2と協調して神経形成に働き、自閉症の発症に寄与する遺伝子が存在すると考えられる。今後は、タンパク質結合データベース等を利用してClk2やClk3の結合タンパク質を同定し、機能解析をおこなう。予備的な検索から、既に複数の候補遺伝子を見つけており、これらの候補遺伝子について初期発生過程での発現を調べる。神経胚期に発現する有望な遺伝子については、cDNAをクローニングして過剰発現や機能阻害実験を実施する。また、過剰発現胚と機能阻害胚の脳形態や遺伝子マーカーの発現を調べることによって、脳形成異常を発症する機構を分子レベルで解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに研究が進んだため、繰越額は僅かである。次年度に消耗品として使用する予定である。
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