研究課題
動脈系血管形成に比較して、静脈系血管形成の解析報告は極端に少ない。これは静脈系が血液の還流路として様々な臓器の発生段階に応じて流動的にかつダイナミックに変遷することに起因する。下大静脈の形成は、原始静脈系の吻合・偏位・消退によって構成されることが広く知られているが、これは組織学的解析からの推察を基にしており、周辺組織の発生を加味した3次元イメージング解析は現在まで行われていない。本研究は、最新のイメージング技術、遺伝子改変マウスを駆使して、静脈形成を時空間的に捉え、さらに従属する器官の発達・退縮と連関して解析する。特に、左右還流路の正中吻合部位を再検討するとともに、その起源となる血管叢の従属器官を明らかにし、解剖学的に定説と考えられていた下大静脈の起源を改めて問う。2020年度はマウス胚を用い、中腎領域のホールマウント免疫蛍光染色や組織切片からの3次元構築によって静脈形成と周辺の器官形成について3次元的な解析を行った。さらにジフテリアトキシン遺伝子を利用して細胞死を誘導する中腎上皮特異的細胞除去マウス(Hoxb7Cre;ROSA-DTA)を作成し、正中吻合における中腎の必要性を検証した。これらの解析から、中腎は原始静脈の正中吻合や下大静脈の形成に寄与していないことが明らかとなった。マウスはヒトに比べ胎生期の中腎発達が乏しいため、トウホクサンショウウオを用いて体壁還流路の発生を解析した。その結果、両側性の原始血管が正中で吻合するためには中腎の発達が必要であり、下大静脈腎部を形成する原始静脈は主下静脈であることが確認された。これらの結果から、下大静脈腎部を形成する原始静脈は、胎生期における中腎の発達度合いにより種間で異なる可能性が示唆されつつある。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り中腎上皮特異的細胞除去マウスコロニーを確立し、野生型マウスと併せて静脈発生を3次元的に解析することができた。さらに下大静脈形成における中腎発達度依存性を評価するために、当初の予定に加えて異種脊椎動物胚を用いた解析を行い、さらなる解析を進めている。
当初の予定に従い、薬剤誘導型VE-cadherin発現細胞標識マウス(Cdh5CreERT2;ROSA-tdTomato)胚やFlk1-BACトランスジェニック(Tg)マウス胚を用いて静脈発生のステージごとに血管内皮細胞の細胞標識を行い、その系譜を解析することで、還流路の吻合、偏位、消退における血管内皮細胞の系譜や還流路の吻合、偏位、消退に伴う内皮細胞の挙動を明らかにする。また、傍大動脈領域における正中吻合のさらなる解析を分子生物学的、解剖学的観点から進める。下大静脈形成における中腎発達度依存性を種間で比較するため、両生類、爬虫類やマウス以外の哺乳類を用いて中腎発生と体壁還流路形成について解析を進める。
購入予定であったソフトウェアと同等の解析が代替品により可能となったため、また、旅費のキャンセルが出たことによって未使用額が生じた。一方で研究の進展により、3次的解析をより多くの遺伝子改変マウスや種間でルーチンに行う必要が生じたため、人件費として次年度以降に使用し、解析を加速させていきたいと考えている。
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International Journal of Molecular Sciences
巻: 22 ページ: 1211~1211
10.3390/ijms22031211
Scientific Reports
巻: - ページ: -
10.1038/s41598-021-89836-7
岩手医学雑誌