下大静脈の形成は、原始静脈系の吻合・偏位・消退によって構成されることが広く知られているが、これは組織学的解析からの推察を基にしており、、周辺組織の発生を加味した3次元イメージング解析は現在まで行われていない。本研究では、体幹還流路の系統発生学的知見を最新のイメージング技術によって刷新し、左右対称に発生する原始静脈の正中吻合の責任器官について、遺伝子改変マウスを用いて再検討を行うことを目的とした。両生類および爬虫類を用いて体幹還流路形成に寄与する主下静脈の再定義を行い、マウスにおける体幹還流路形成と周辺器官発生の4次元的解析を行なった。その結果、主下静脈はマウスにおいて中腎頭部にわずかに形成されるのみであった。その頭側部からは新たな静脈洞が形成されており、後に左腎静脈の形成に寄与することがわかった。さらに、中腎上皮特異的細胞除去マウスの解析から中腎は原始静脈の正中吻合や下大静脈の形成に寄与しないことが示唆された。新たな静脈洞周辺に形成される副腎および傍神経節に注目し、遺伝子改変マウスを使用して還流路形成に与える影響を解析した結果、副腎欠損マウスでは吻合の低形成と遅れが顕著であり、原始静脈の左右吻合形成に副腎および傍神経節内に作られる静脈洞が寄与する可能性が示唆された。しかし、副腎髄質低形成マウスでは腎臓も低形成または欠損となるため、左腎静脈の形成を確認できなかった。最終年度では爬虫類(アカウミガメ)に関する知見を集めるとともにコンディショナルノックアウトマウスを作成し、副腎髄質を含むクロム親和性細胞組織の有無によって腎還流路を包括した下大静脈形成が大きく影響を受けることを明らかにしつつある。本研究は哺乳類における下大静脈腎部の新たな起源を明らかにするものである。
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