研究課題/領域番号 |
20K07237
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉川 貴子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (90727851)
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研究分担者 |
若松 義雄 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (60311560)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射状グリア細胞 / 細胞周期因子 / mRNA |
研究実績の概要 |
大脳皮質の発生過程では、放射状グリア細胞(radial glia; RG)と呼ばれる神経幹細胞が予め決められたタイミングで増殖・分化し、多様な神経細胞が産生される。RG細胞は脳表面(基底膜側)まで非常に長い放射状の突起を伸ばしており、基底膜側突起を受け継いだ娘細胞はRG細胞として未分化性を維持することが知られている。我々はこれまでに、細胞周期のG1期からS期への移行を促進するCyclinD2のmRNAおよびタンパク質が、RG細胞の基底膜側突起の末端部まで輸送されること、さらにCyclinD2 mRNAの3´UTR領域に輸送に必要な約50 bpの配列があることを明らかにしていた(Tsunekawa et al., EMBO J, 2012)。さらに我々は、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9法によりCyclinD2 mRNA輸送配列を欠失させたマウスのRG細胞において、CyclinD2 mRNA輸送が阻害されることを見出している(吉川ら未発表)。今年度は、このCyclinD2 mRNA輸送阻害マウスと野生型マウスを用いて大脳皮質原基の細胞増殖の測定を行った。その結果、転写因子Tbr2を発現する中間増殖細胞の増殖が、CyclinD2輸送阻害マウスで低下していた。また、マウス型の3´UTR を含むCyclinD2をマウスに強制発現したところ、これらの細胞集団が存在するsubventricular zoneにおいて細胞増殖の増加が認められたことから、CyclinD2が特定の細胞集団の増殖性を制御する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RG細胞におけるCyclinD2 mRNA輸送の機能を明らかにするために、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9法により作製したCyclinD2 mRNA輸送阻害マウスを用いて、大脳皮質における細胞増殖アッセイを行った。各種細胞増殖マーカーを用いて増殖細胞の定量を行ったところ、CyclinD2 mRNA輸送阻害マウスにおいて、Tbr2を発現する中間増殖細胞の増殖が低下していた。さらに、マウス型の3´UTR を含むCyclin D2の発現ベクターを作製し、マウス胎仔脳室内に注入し、子宮内電気穿孔法を用いてRG細胞に導入した。その結果、Tbr2陽性の細胞集団が存在するsubventricular zoneにおいて細胞増殖の増加が認められた。この結果から、Cyclin D2の輸送機構がTbr2陽性細胞の増殖性の制御する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内mRNA輸送による有胎盤類の大脳皮質拡大メカニズムを明らかにするために、オポッサムおよびニワトリ胚の大脳皮質において、マウス型の3´UTR を含むCyclinD2を電気穿孔法により強制発現させ、Tbr2陽性中間増殖細胞の増殖や大脳皮質のニューロン産生に与える影響について解析する。また、CyclinD2に加えて、RG細胞の基底膜突起へ輸送されるmRNAの同定するために、RG細胞の基底膜突起をのみを切り出し、基底膜突起で発現する分子の種間相同性を解析する実験に着手予定である。
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