研究課題/領域番号 |
20K07239
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
中野 知之 山形大学, 医学部, 准教授 (00333948)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小胞体 / ジアシルグリセロールキナーゼ / 脂質代謝 / 細胞内情報伝達系 |
研究実績の概要 |
epsilon型ジアシルグリセロールキナーゼ(DGKe)は小胞体に局在し、脂質代謝と細胞内シグナリングの両方を制御する酵素である。本研究では、高脂肪条件(①高脂肪食負荷による動物実験および②高濃度脂肪酸添加条件での細胞培養)で、DGKeと他の小胞体に発現する関連分子の関連を解析し、小胞体を基盤とした、より詳細なDGKeの機能的役割の解明を目的としている。計画初頭におけるCOVID-19感染症の影響により、実験計画を一部変更して研究を進めている。令和3年度は、①高脂肪食負荷による動物モデルの解析を中心に行い、興味深い知見を得た(次項参照)。②細胞を用いた実験は、実験系の立ち上げに留まっている。研究計画では令和3年度中に本研究を国際学会で発表し、他の研究者のコメントを得て、データをブラッシュアップする予定であった。しかし、COVID-19の影響で外国出張が困難となり、意見交換を行う場を作ることができなかった。次年度は進行状況に合わせて積極的に国際学会に参加し、論文発表の準備をする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画初年度、COVID-19感染症により教育カリキュラムの変更が生じ、研究進行の遅れが生じた。令和2年度はその遅れを取り戻すべく研究計画通りに遂行したが、遅れは完全には取り戻せていない。令和2年度に引き続き、野生型およびDGKeノックアウト(KO)マウスを高脂肪食(HFD)で180日給餌した際の各種脂肪組織の解析を行った。脂質代謝関連分子に注目したウェスタンブロット解析の結果、興味深い知見が得られた。褐色脂肪組織(BAT)において、エネルギーセンサーAMP kinase (AMPK)の相対活性がDGKe-KOマウスで低下し、AMPKにより活性調節を受けるacetyl-CoA carboxylase (ACC)の活性が亢進することが明らかとなった。さらに、BATおよび鼠径部皮下脂肪(sWAT)において、cyclooxygenase-2 (COX-2)の発現増強が認められた。HFD給餌によるCOX-2のタンパク発現亢進は、既報の通り、精巣上体(内臓)脂肪(eWAT)で認められるが、本結果は、DGKe欠損は内臓脂肪だけでなく皮下脂肪や褐色脂肪においても認められる脂肪組織に共通する現象であることが明らかとなった。sWATではadipose triglyceride lipase (ATGL)の発現が増強することを見出した。ATGLは小胞体や脂肪滴に局在し、TG分解に働く酵素である。これまでにDGKe-KOマウスのeWATでは、HFD給餌40日で発現が低下することが報告されている。今回、sWATでは発現が亢進することは興味深い知見であり、そのメカニズムの解明を令和4年度に計画している。
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今後の研究の推進方策 |
最終研究計画年である令和4年度は、引き続き動物モデルの鼠径部皮下白色脂肪組織における小胞体局在分子の発現解析を継続する。動物モデルの解析を終えたのち、本来研究計画1年目に行う予定であった野生型およびDGKe-KOマウスから白色脂肪細胞および褐色脂肪細胞を単離し、エネルギー過剰条件(400 μMオレイン酸)で培養実験を開始し、動物モデルで得られた結果の詳細な解析を開始し、進捗遅れの回復を図りたい。研究遂行過程で、令和3年度にはCOVID-19の影響で参加できなかった国際学会に出席・発表し、世界中の研究者のコメントを得て、データをブラッシュアップしたい。令和4年度は進行状況に合わせて積極的に学会に参加し、論文発表の準備をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画初年度に生じたCOVID-19感染症によって、実験計画の進捗に遅れが生じた。令和3年度は遅れを取り戻すべく実験を行ったが、完全には遅れを取り戻すには至らなかった。これまでに施行した動物実験の結果、epsilon型ジアシルグリセロールキナーゼ(DGKe)遺伝子欠損(KO)マウスの脂肪組織では、脂肪組織種依存的に小胞体関連分子の発現変化が生じることが明らかとなった。よって令和4年度では、そのメカニズムの詳細な解析を行うために各種抗体、細胞の実験系では、細胞培養に係る試薬(培養液や血清)など消耗品購入を予定している。
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