本研究では、RNAヘリカーゼObp2の成熟オリゴデンドロサイト(OL)特異的欠損マウス(Mbp-Cre;Obp2 cKOマウス)の解析で我々が見出した、明確なOL分化異常を伴わずにニューロン内のp53経路活性化および神経変性を引き起こすメカニズムの解明を通して、OL-ニューロン間相互作用のさらなる理解を目指す。 今年度は、昨年度見出したOLやニューロンの表現型をさらに解析した。Obp2欠損マウスのOLが豊富に存在する脳梁からRNAを抽出し、RNA-seqに供したところ大脳におけるRNA-seqと同様に、多くのコレステロール合成関連遺伝子の発現が低下していた。さらに、DNA修復関連遺伝子群や老化抑制シグナル関連遺伝子群の顕著な低下も認められた。一方、興味深いことにアルツハイマー病や多発性硬化症などの難治神経疾患おいて、近年注目されている疾患関連OLで発現が高い複数の遺伝子の発現亢進が認められた。これらの遺伝子およびタンパクの発現がObp2欠損OLで変動していることを、免疫染色やin situ hybridizationなどで一部確認した。また、p53経路活性化に関与することが報告されているいくつかの分泌因子をコードする遺伝子発現の亢進も認められた。RNAスプライシングの変動を解析したところ、RNA代謝やミトコンドリア機能に関与する因子のエクソンスキップが顕著に認められた。その中には、OLからニューロンへ輸送されることが報告されている因子も含まれていた。 ニューロンにおいては、細胞老化の指標となるSA-ベータ-ガラクトシダーゼの活性化亢進を大脳皮質で確認した。 以上のことから、Obp2欠損マウスではOLの障害や機能異常が生じ、ニューロンの老化や脱落が引き起こされることが示唆された。
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