リンパ管の弁形成過程の開始の引き金となる機構についてはまだ十分に明らかにされていない。われわれは転写因子FOXO1を欠損するリンパ管内皮細胞(LEC)を用いたDNAアレイ解析により、FOXO1欠損によりリンパ管弁形成時に発現誘導される一連の遺伝子群(弁形成遺伝子)の発現が上昇することに注目した。実際にLECにおいてsiRNAによりFOXO1を発現抑制することによって弁形成遺伝子mRNAおよび蛋白が誘導されることを確認した。さらに弁形成の引き金である振動ずり応力(OSS)とFOXO1の転写活性の間にどのような関係があるかを調べるため、培養したLECにOSSを加えたのちにFOXO1の細胞内局在、Aktキナーゼの活性化、さらに弁形成遺伝子の発現を検討した。OSSはAktを一過性に活性化し、FOXO1蛋白を核外に局在変化させること、さらに弁形成遺伝子の発現を上昇させることが明らかとなった。この変化はPI3K-Akt経路を阻害する薬剤の添加または活性型FOXO1の発現によって抑制された。これらのことからLECにおいてOSSによって活性化されたAktによるFOXO1の転写抑制を介して弁形成遺伝子の発現が誘導されることが示唆された。実際にこの経路がマウスのリンパ管弁形成過程に利用されている可能性を検討するため、リンパ管内皮特異的FOXO1欠損マウスおよび活性型FOXO1発現マウスを作製し、弁形成への影響を検討した。確かにFOXO1欠損マウスではリンパ管弁の数が有意に増加しており、逆に活性型FOXO1発現マウスではリンパ管弁形成が著しく減少していた。以上の結果から、リンパ管の弁形成の開始時において、OSSによりAktが活性化されFOXO1の転写活性が抑制されることにより弁形成遺伝子群の発現が誘導され弁形成が進行していくと考えられた。
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