研究課題/領域番号 |
20K07251
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
北澤 彩子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (10535298)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海馬CA1錐体細胞 / 大脳新皮質錐体細胞 / 細胞移動 / 細胞移植 / 子宮内胎児脳電気穿孔法 / 放射状グリア線維 / スライス培養 / ピューロマイシン |
研究実績の概要 |
マウス海馬CA1錐体細胞の移動様式の一つであるクライミングモードの特徴を得るため、昨年度確立した放射状グリア繊維のスライス培養方法を用いて移動細胞の周辺環境の影響を大脳新皮質錐体細胞の移動様式であるロコモーションモードと比較検討した。胎生14と16日目に、子宮内胎児脳電気穿孔法によりピューロマイシン耐性遺伝子発現プラスミドとEGFPあるいはtd-tomato発現プラスミドをそれぞれ導入し、胎生17日目にスライス培養を行った。その際、ピューロマイシンを加えることで耐性遺伝子が導入されている細胞以外を死滅させることができた。この時、生き残った細胞の移動様式をタイムラプスにより観察した結果、 大脳新皮質錐体細胞はロコモーションモードでCA1錐体細胞はクライミングモードで移動した。さらにピューロマイシンを用いて大脳新皮質の放射状グリア細胞のみを生存させたスライス培養に、CA1錐体細胞を異所移植した場合も正常に移動することができなかった。以上のことから、ロコモーションモードとクライ ミングモードはそれぞれ周囲の環境に依存しない固有の移動メカニズムを持つ事が明らかになった。そこで移動メカニズムを制御する因子を明らかにするために、移動時の大脳新皮質とCA1錐体細胞に対しマイクロアレイ分析を行った結果、発現量に差がある遺伝子(FC>10)が69個抽出された。 CA1錐体細胞の立体構造を再構築するため、昨年度より適切な撮影方法を検討していた2光子顕微鏡による放射状グリア線維の撮影を行った。Td-tomatoプラスミド を導入し、0.5日あるいは1日後に脳を固定して線維を詳細に撮影する事に成功した。蛍光タンパク質の脳室での発現量を調整することが難しいため、多くが束状に線維が撮影されることから、現在、撮影されたデータをイマリスソフトを用いて手動で再構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はクライミングモードの特徴を共焦点レーザー顕微鏡及び電子顕微鏡を用いて詳細に検討した。本年度はその移動様式が周囲の環境あるいは細胞自身の要因であるのかどうかを、昨年新たに開発した放射状グリア細胞の培養方法や移植技術を用いて明らかにした。さらに、大脳新皮質とCA1錐体細胞の移動を特徴付ける因子を検索するため、両者のマイクロアレイ分析を行い、現在までに69個の候補遺伝子を抽出する事にも成功した。 さらに、CA1領域の放射状グリア線維の立体構造の再構築を行うための2光子顕微鏡による撮影も可能になり、CA1領域に張り巡らされている線維の全体像が得られ始めている。
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今後の研究の推進方策 |
マウス海馬CA1錐体細胞の移動様式であるクライミングモードを特徴付ける因子を同定するため、マイクロアレイの結果から絞り込んだ候補遺伝子を大脳新皮質、及びCA1錐体細胞に導入する。あるいは候補遺伝子を導入したCA1錐体細胞を大脳新皮質に異所移植する予定である。また、最終年度であるため論文としてまとめ、発表したいと考えている。 CA1領域の放射状グリア線維の三次元構築を行うことができたら、それをもとに、放射状グリア線維の全長を損なうことのないような切片作成角度を検討し、CA1錐体細胞の移動様式を詳細に観察できる方法を確立したいと考えている。この方法が確立できれば、例えばCA1錐体細胞の移動でいまだによくわかっていないIZの移動様式を詳細に観察するなどして海馬の正常発生をさらに掘り下げることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)昨年度に引き続き、Covid-19の影響下で国内外学会用の旅費や参加費が減ったため。電子顕微鏡用ナイフの研ぎを行わなかったため。 (使用計画)今年度は現地での学会発表を予定しているのでその費用に充てる予定である。電子顕微鏡用ナイフは高額なため、キャンペーンなどの時期を見計らって研ぎ、あるいは購入したいと考えている。
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