研究課題/領域番号 |
20K07251
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
北澤 彩子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10535298)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 海馬CA1錐体細胞 / 大脳新皮質錐体細胞 / 細胞移動 / 細胞移植 / 子宮内胎仔脳電気穿孔法 / マイクロアレイ / Cux遺伝子 |
研究実績の概要 |
脳発生時、マウス海馬CA1錐体細胞(以下、CA1細胞と表記)は目的の場所まで移動するが、令和4年度は、その移動様式である“クライミングモード”の機構を特徴付ける要因を明らかにすることを目的とした。昨年度得られた放射状グリア線維のスライス培養方法を用いて、移動する錐体細胞の周囲の環境を排除し移動様式の変化を検討した結果、周囲の環境が変化しても、CA1細胞はクライミングモードの形態で移動した。また、大脳新皮質錐体細胞に対しても同様の培養方法を検討した結果、移動様式(ロコモーションモード)の形態に変化は見られなかった。さらに、CA1細胞を大脳新皮質領域へ移植した場合においても、ロコモーションモードの形態に変化せず正常に移動しなかった。つまり、既存の環境が存在しなくとも錐体細胞は本来移動する場所で移動する際の形態を維持することから、移動様式は細胞自身に要因があることが示唆された。 次に、大脳新皮質とCA1細胞をマイクロアレイ分析した結果、転写因子として知られているCuxが、両者の間で最も発現量に差があることが明らかになった。そこで、Cux遺伝子のKDプラスミドを作成し、発現量が大きい大脳新皮質錐体細胞へ子宮内胎仔脳電気穿孔法により導入した結果、多くの錐体細胞は途中で移動が停止し、突起を複雑に伸長する形態へ変化した。対して、Cux遺伝子の過剰発現プラスミドをCA1細胞へ導入した場合、多くのCA1細胞が先導突起を細長く伸ばした形態に変化することを見出した。さらにCux遺伝子を過剰発現させたCA1細胞を、大脳新皮質領域へ移植した結果、一部の細胞の中には、ロコモーションモードに似た形態で移動する細胞が観察された。 以上の結果、令和4年度は、海馬CA1錐体細胞の移動様式が周囲の環境に左右されないこと、また、その要因としてCux遺伝子が関係していることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、クライミングモードを特徴付ける要因の探索を目的として、昨年度に確立した放射状グリア線維のスライス培養方法を用いて観察した結果、細胞移動は周囲の環境に影響されない事を明らかにした。続いて、海馬CA1と大脳新皮質の錐体細胞をマイクロアレイ分析により比較した結果、候補遺伝子としてCuxに注目した。子宮内胎児脳電気穿孔法、及び移植方法を用いて、Cux遺伝子が両者の移動様式を特徴付ける突起の数、および移動に影響を与えることを明らかにした。現在、これらの結果を論文にまとめている。 また、放射状グリア線維の立体構造を、2光子顕微鏡を用いて撮影することも目標としており、昨年の失敗をもとに令和4年度は撮影方法を工夫することで、透明化したマウス全脳から海馬CA1領域を安定的に撮影できる方法を確立することができた。次年度はイマリスなどの解析ソフトを用いて、立体構造を構築する予定である。 以上の結果、現在までおおむね順調に進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
錐体細胞の移動を特徴づける因子が周囲の環境ではなかったことと、細胞の移動様式を特徴づける因子の一つとしてCux遺伝子を同定した結果について、論文として発表する。 並行して、2光子顕微鏡を用いたCA1領域の放射状グリア線維の再構築について検討する。撮影したデータをもとに、イマリスなどの画像解析ソフトを用いて再構築する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)令和4年度は研究代表者の妊娠のため、体調を管理しながらの研究となり、マウスの購入数が著しく低下した。また、学会参加なども控え、あるいはオンライン参加に切り替えたため旅費などが発生しなかった。 (使用計画)令和4年度は産休が明けてからの使用になる。論文投稿の準備と追加実験に使用する予定である。また、2光子顕微を用いて撮影した放射状グリア線維の3D構築をイマリス等のソフトウェアを使用して行うため、中央機器の使用頻度が昨年度に比較して増えると考えられるため、そちらに使用する予定である。
|