研究課題/領域番号 |
20K07258
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
藤井 拓人 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (50567980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | K+ポンプ / P型ATPase / 小胞体 / Ca2+シグナリング |
研究実績の概要 |
小胞体は、Ca2+の貯蔵庫であり、小胞体からのCa2+放出は生体活動・維持に重要な様々なシグナルを誘導する。近年、小胞体からの Ca2+ 放出には、TRIC K+チャネルによるK+の小胞体内への取り込みが必須であることが報告され、小胞体膜を介したK+輸送の重要性が明らかとなった。しかし、小胞体-細胞質間のK+濃度勾配の回復や維持には、TRICチャネルにより取り込まれたK+を再び細胞質へ放出する「K+汲み出しポンプ」が必要であると考えられるが、その分子実体は未だ不明である。我々は、様々な細胞の小胞体に発現する「ER-ATPase(論文発表前のため仮称)」がK+-ATPase(K+ポンプ)として機能することを見出した。ポンプとして機能するER-ATPaseであればATP加水分解エネルギーを利用し、小胞体から細胞質へ濃度勾配に逆らったK+汲み出しが可能である。本研究は、(1)ER-ATPaseの小胞体におけるK+汲み出し機構およびその制御メカニズム、(2)小胞体Ca2+シグナリングにおける生理的意義、(3)ER-ATPaseの機能破綻による病態発症機構の解明を目的とし、K+ポンプの関与する小胞体Ca2+シグナリング制御機構という新規概念の実証を目的とする。本年度は、主に(1)K+の放射性同位体である86Rb+を用いたER-ATPaseの小胞体膜におけるK+輸送機能の解析、(2)ER-ATPaseの過剰発現細胞およびsiRNAによるノックダウン細胞を用いて、小胞体のCa2+ホメオスタシスにおけるER-ATPaseの生理機能についての検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HEK293細胞にK+の放射性同位体である86Rb+を取り込ませ、サポニンにより原形質膜の透過性を高めた条件において、小胞体からのATP依存性の86Rb+放出能を検討した。ER-ATPaseを過剰発現細胞では、空ベクターを導入したmock細胞に比べて小胞体からのCa2+放出が有意に亢進した。この亢進は、ER-ATPaseの自己リン酸化部位および我々が見出したK+結合部位に存在する重要なアミノ酸残基に変異を入れることで消失した。 また、Ca2+インジケーターであるFura-2-AMを用いて、HEK293細胞においてthapsigargin、ATP、ionomycinによって誘導された小胞体からのCa2+放出レベルを測定したところ、ER-ATPase過剰発現細胞ではmock細胞に比べて有意に放出レベルが減少した。他方、ER-ATPaseに対するsiRNAを導入したER-ATPaseノックダウン細胞では、thapsigarginにより誘導した小胞体からのCa2+放出が増加する傾向が観察された。本年度の研究より、ER-ATPaseが小胞体膜においてK+-ATPaseとして小胞体から細胞質へのK+放出を担っていること、またその機能が小胞体のCa2+貯蔵レベルおよび放出能に関与している可能性が明らかとなった。 以上の点により、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
下記の研究を行い、ER-ATPaseの小胞体Ca2+シグナリング機構における生理機能およびその発現および機能破綻が引き起こす病態生理機能の全容解明を目指す。 (1)ER-ATPase関連分子の探索および機能調節機構の解明:ER-ATPaseに結合する分子を免疫沈降法およびプロテオーム解析により同定する。また、ER-ATPase過剰発現細胞、ノックアウト細胞において、ER-ATPaseの発現変動により発現が変化するタンパク質群をプロテオーム解析により同定する。候補分子の過剰発現やノックアウト細胞を作製し、ER-ATPaseの発現や機能、小胞体Ca2+シグナリングの変化を検討する。 (2) ER-ATPaseのK+輸送を阻害もしくは活性化する化合物の探索:ER-ATPaseのイオン輸送機能を活性化もしくは阻害する化合物を探索し、候補化合物の小胞体Ca2+シグナリングへの効果を検証する。 (3) ER-ATPaseノックアウト細胞もしくはマウスを作製し、フェノタイプ解析を行う。特に、小胞体の形態や機能異常および小胞体ストレスとの関連性に着目する。また、Ca2+シグナル関連タンパク質やER-ATPase付随タンパク質の発現や機能の変化について解析する。 (4) ER-ATPaseの機能異常とヒトにおける病態との関連性の解明:上記研究において関連が示唆された疾患を罹患している患者の組織や細胞の単離、および初代培養細胞の作製を行い、ER-ATPaseの発現や機能の異常を検討する。また、がんを含めた関連疾患のヒト組織アレイを用いて、多検体の各種疾患患者の正常および病態組織におけるER-ATPaseの発現レベルおよび局在を検討し臨床データとの相関を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、本年度購入予定であった物品の国外からの納入が本年度に間に合わなかった。これら物品は次年度予算により購入し研究に用いる予定である。
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