研究課題/領域番号 |
20K07259
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
津野 祐輔 金沢大学, 医学系, 助教 (70827154)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 概日リズム / 視交叉上核 / ファイバーフォトメトリー / カルシウム / in vivo |
研究実績の概要 |
全身の概日リズムの同調を制御する視交叉上核において、背内側部のAVPニューロンと、腹外側部のVIPニューロンは、異なる機能を持つと考えられているが、詳細は明らかではない。視交叉上核AVPニューロンとVIPニューロンを区別して標識するために、新たにVIP-tTA(tetracycline transactivator)ノックインマウスを確立し、AVP-creマウスと掛け合わせることで、異なる細胞種を標識できることを示した(Peng, Tsuno et al., in revision)。次に、この掛け合わせたマウスを用いて、AVPニューロンの機能を調べるため、以下の実験を行った。まず先行研究では、AVPニューロン特異的に、時計遺伝子を制御するリン酸化酵素CK1δ(casein kinase 1 delta)をノックアウトしたマウス(AVP-CK1δ-/-)において、行動概日リズムの周期が延長した(Mieda et al., 2016)。この行動概日リズム周期の延長が、自由行動下の視交叉上核ニューロンの活動とどう結びつくかを調べるために、視交叉上核ニューロンのカルシウム活動をin vivoで可視化した。その結果、AVPニューロンのカルシウムリズム周期の延長が観察された。さらに、VIPニューロンのカルシウムリズム周期も、延長していることが明らかとなった。つまり、VIPニューロンは、自身が正常なCK1δを保有しているにもかかわらず、AVPニューロンからの影響で、VIPニューロンのリズム周期も変化が起こったと考えられる。この結果は、AVPニューロンが視交叉上核全体の概日リズムの周期に、決定的な役割を担っていることを示唆する。この結果を、日本時間生物学会と日本生理学会で発表し、論文を準備中である(Tsuno et al., in preparation)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視交叉上核AVPニューロンとVIPニューロンを区別して標識するために、新たにVIP-tTA(tetracycline transactivator)ノックインマウスを確立し、AVP-creマウスと掛け合わせることで、異なる細胞種を標識できることを示した(Peng, Tsuno et al., in revision)。また、AVP ニューロン特異的に、時計遺伝子を制御するリン酸化酵素CK1δ(casein kinase 1 delta)をノックアウトしたマウス(AVP-CK1δ-/-)において、AVPニューロンのカルシウムリズム周期が、行動リズム周期と供に、延長していることを明らかにした。さらに、AVP-CK1δ-/-マウスでは、VIPニューロンのカルシウムリズム周期も延長していることを明らかにした。このことは、AVPニューロンが視交叉上核全体の概日リズムの周期に、決定的な役割を担っていることを示唆する。これらの結果を元に、論文を準備中である。次に、ファイバーフォトメトリーの二色・四動物同時記録法に成功し、日内リズムが観察できてきている。当初はシグナル強度が弱く、安定した記録ができていなかったが、フレームレートを下げることで、シグナル強度を十分得られ、記録が安定してきた。また、当初は赤色のカルシウムインジケータの発現が弱く、カルシウムリズムを計測できるレベルではなかったが、jRGECO1aを用い、またAAVベクターのタイター値を上げることで、飛躍的に発現強度を上げることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、立ち上げたファイバーフォトメトリー長期記録の系を用いて、他の遺伝子改変マウスについても記録を行う。また、カルシウムインジケータ以外のセンサーについても記録を行う。記録法の改善を重ね、S/N比の高い安定した記録の実現を目指す。時計遺伝子Per2の発現をモニターできるPer2.Venusと、GABAセンサーであるiGABASnFRを用いた実験を進め、個体数を増やして結果を確立する。視交叉上核AVPニューロンとVIPニューロンにおいて、カルシウムリズム、時計遺伝子、GABA入力がどのような関係性になっているのかを明らかにする。また、多動物同時記録法を進める。これまでの研究で、視交叉上核AVPニューロン特異的に時計遺伝子を操作したマウスで、個体の概日リズムに著しい異常が出ることから、視交叉上核のAVPニューロンが概日リズムの発振やその周期の決定に極めて重要な役割を果たすと考えている。AVPニューロンのみの時計遺伝子を操作しているので、AVPニューロンの活動変化が個体の概日リズム異常を引き起こしていると推測され、その確固たる証拠が得られつつある。視交叉上核のスライスを用いた実験では、必ずしも個体サーカディアンリズムの変化と一致する結果が得られておらず、視交叉上核ネットワークや液性因子の関与も示唆される。よって、AVPニューロンが概日リズムを発振するメカニズムを明らかにするためには、自由行動下マウスのAVP ニューロン活動を観察することが必要不可欠である。本研究により、視交叉上核内における概日リズム制御の、神経回路メカニズムに迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額(2万円以下)の次年度使用額は、最終の令和4年度に有効活用する。
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