研究実績の概要 |
ミトコンドリアは「エネルギー産生を担う均質なオルガネラ」という古典的概念から「代謝コミュニケーションにより高次機能を制御するオルガネラ」へと変貌してきた。ミトコンドリアの融合と分裂(ミトコンドリアダイナミクス)のバランスは、ミトコンドリアの形態・機能を維持する生命現象の根幹であり、時々刻々とダイナミックにミトコンドリア形態は変化するが、ミトコンドリアダイナミクスの詳細な機構は、依然として不明な点が多い。 ホスホイノシタイド/イノシトールリン脂質(PIPs)は形質膜、オルガネラ膜を構成するリン脂質であり、PIPsの変化はオルガネラをはじめとした細胞内膜輸送において重要である。ミトコンドリア融合の分子メカニズムを明らかにするために、ミトコンドリア融合プロセスを調節するPIPsを探索したところ、PI(3,4)P2がミトコンドリア外膜(OMMs)に膜融合関連因子を動員することで、ミトコンドリア融合を促進することを見出した。PI(3,4)P2代謝酵素のノックダウンは、ミトコンドリア融合因子(Mitofusin1/2など)、分裂因子(Drp1、MFFなど)の発現レベルは変化せず、また、Mitofusin1は正常にミトコンドリア融合部位に動員されるにも関わらず、著しいミトコンドリア断片化を示した。また、断片化ミトコンドリアの機能が著しく低下、及び、活性酸素(ROS)の蓄積が観察された。さらに、心筋細胞特異的なPI(3,4)P2代謝酵素KOマウスは、断片化ミトコンドリアが蓄積し、心臓収縮不全を呈し生後1~2日以内に死亡した。 以上のことから、PI(3,4)P2は新規OMMs融合因子であり、OMMsにおけるPIPsレベルの変化がミトコンドリアダイナミクスに必須であり、生体レベルにおける恒常性維持に必須なイベントである事を明らかにした。
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