研究課題/領域番号 |
20K07262
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
椛 秀人 高知大学, 医学部, 名誉教授 (50136371)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 環境生理学 / 神経科学 / 個体認識 / 匂い / 鋤鼻系 |
研究実績の概要 |
妊娠雌マウスが交配雄とは異なる系統の雄の匂いに曝露されると妊娠の進行が止まり、流産する(ブルース効果)。一方、雌マウスは交尾を契機に交配雄の匂いの刷り込み学習(主座:副嗅球)を成立させ、交配雄の匂いによる妊娠阻止を回避している。研究代表者らは2017-2019年度科研費挑戦的研究(萌芽)で、ミトコンドリア呼吸鎖酵素のNADH dehydrogenase 1(ND1)とNADH dehydrogenase 2(ND2)のN末端から9残基のペプチド(生合成時、N末端がホルミル化されている。それぞれND1ペプチドとND2ペプチドと呼ぶ)のアミノ酸配列がマウスの系統間で異なることに着目し、非自己の脱ホルミル化ペプチドがブルース効果を惹起するなど個体認識の手がかりとなる匂い分子として機能していることを見出した。 ミトコンドリア由来ペプチドは母親を通して子に受け継がれる。昨年度、BALB/cとNZBの間ではブルース効果が母性遺伝することを明らかにした。一方、BALB/cとCBAとの間でND1ペプチドとND2ペプチドのアミノ酸配列が同じであるにも関わらず、BALB/c雄と交尾したBALB/c雌の妊娠はCBA雄やその尿により阻止される。そこで、BALB/cとCBAの間でもブルース効果が母性遺伝するか否か、BALB/cとCBAの正逆交雑によりF1を得て、その尿の妊娠阻止効果を検討したがブルース効果の母性遺伝は観察されなかった。この結果は、BALB/c雄と交尾したBALB/c雌の妊娠を阻止するCBA雄尿中の原因物質がミトコンドリア由来ペプチドではなく他の因子、たとえば主要組織適合遺伝子複合体(MHC)ペプチドなどが関わることによると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブルース効果を惹起する匂い分子がミトコンドリアゲノム由来ペプチドであれば、そのブルース効果は母性遺伝することを昨年度証明した。ブルース効果を引き起こす匂い分子は複数存在していて、ミトコンドリア由来ペプチドの他にMHCペプチドやESP1などが知られている。BALB/cとCBAとの間でND1ペプチドとND2ペプチドのアミノ酸配列が同じであるにも関わらず、BALB/c雄と交尾したBALB/c雌の妊娠はCBA雄により阻止される。そこで、BALB/cとCBAの間でもブルース効果が母性遺伝するか否か検討したがブルース効果の母性遺伝は観察されなかった。 以上より、本研究課題の進捗状況がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリアペプチドに対する副嗅球僧帽細胞の神経アンサンブル活動応答を解析することにより、ブルース効果および学習後に妊娠の保障に帰結する出力信号の解読を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
電気生理学的解析が遅れ、消耗品の購入を次年度に行うことになったため、次年度使用額が生じた。
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