研究課題/領域番号 |
20K07266
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
飯塚 眞喜人 昭和大学, 医学部, 准教授 (40274980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Phox2B / 吸啜 / 新生ラット / 脳幹-脊髄摘出標本 / しゃっくり |
研究実績の概要 |
吸啜は乳児が母親から栄養を得るために不可欠なリズム運動である。しかし有効な誘発方法が無かったため、吸啜リズム形成回路網はブラックボックスであり、その理解は遅れている。脳幹領域の発生・分化に不可欠な転写因子としてPhox2b遺伝子が知られており、我々はPhox2b陽性ニューロンにチャネルロドプシンを発現させた遺伝子改変ラットを作成した。そしてこの新生児の頭部背側から光照射すると口のリズム運動が誘発されることを偶然発見し、このリズム運動が吸啜運動であること、脳幹-脊髄摘出標本においても機能していることを示した。本研究の目的はこの新しい誘発方法を用いて、①吸啜リズムに関連するニューロン群の脳幹内分布、②電気生理学的性質や伝達物質、③内因性リズム形成能、④同期活動におけるギャップ結合の関与、⑤拮抗筋間の交代性活動における抑制性シナプスの関与について調べ、吸啜リズム形成回路の全容を解明することである。 2022年度は無麻酔の遺伝子改変ラットの新生児で観察される口のリズム運動とその脳幹-脊髄摘出標本で観察されるリズム活動との関連を調べるため、麻酔した遺伝子改変ラット新生児を用いて、顎二腹筋、咬筋、横隔膜から筋電図を記録し、光照射により誘発される口のリズム運動時の筋活動パターンについて調べた。その結果、顎二腹筋は開口に一致して、咬筋は閉口に一致して活動することが分かった。この時、横隔膜からは呼吸性リズム活動のみが観察された。以上の結果から、口のリズム運動は脳幹-脊髄摘出標本で脳幹背側の光照射後に観察される三叉・舌下・横隔神経間で同期したリズム活動とは異なることが示唆された。我々は筋電図の記録実験で口の開閉運動を伴わない筋のリズム活動があることに気づいた。それはしゃっくり様活動で、顎二腹筋、咬筋、横隔膜が同期して活動することから、脊髄摘出標本で観察されるリズム活動に相当すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画作成時は、無麻酔の遺伝子改変ラット新生児の光照射で誘発される口のリズム運動と脳幹-脊髄摘出標本で観察される横隔神経のリズム活動は同じ運動であると考えていた。投稿論文の査読者の指摘により、麻酔した遺伝子改変ラット新生児を用いて、口のリズム運動時の顎二腹筋、咬筋、横隔膜の活動パターンについて調べた。その結果、脳幹-脊髄摘出標本で観察される横隔神経のリズム活動は吸啜ではなくしゃっくりであることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
しゃっくりの神経機序も未だ解明されていないため、脳幹-脊髄摘出標本を用いた①吸啜リズムに関連するニューロン群の脳幹内分布、②電気生理学的性質や伝達物質等の解明は重要である。2023年度は、麻酔した遺伝子改変ラット新生児を用いて得た筋電図の解析を進め、光で誘発される運動について論文を作成する。また脳幹-脊髄摘出標本を用いて得たデータをしゃっくりの神経機構として論文にする。さらに、脳幹-脊髄摘出標本で吸啜様活動を誘発する方法について研究計画を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文の査読者の指摘により、麻酔した遺伝子改変ラット新生児を用いて、口のリズム運動時の顎二腹筋、咬筋、横隔膜の活動パターンについて新たに実験を行った。その結果、論文にするのが遅れ、次年度使用額が生じた。2023年度は研究成果を学会にて発表し、論文として公表する。
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