研究課題
細胞の膜電位に応じて酵素活性を示すという特有の蛋白質である電位依存性ホスファターゼVSPに着目した研究を行った。VSPはイノシトールリン脂質PIP2を基質としている。これまで我々はVSPが精子の鞭毛に発現し、受精能獲得時の運動制御に関わることを明らかにしていた。本研究課題では、とりわけ「VSPは精子の膜電位をいつ感知するのか」という点に主題を置き、検証を行った。まずは様々な成熟段階にある精子を精巣および精巣上体から摘出し、そこに含まれるイノシトールリン脂質の量を質量分析によって解析した(東京医科歯科大学・佐々木教授との共同研究)。その結果、精子の成熟途中にある膜電位情報が重要であることを明らかにした。すなわち成熟状態の異なる精子を用いてPIP2のレベルを解析したところ、未成熟段階の精子で既にVSPの活性を生じていることが分かった。またこのVSPの活性による影響は精子の成熟が近付くにつれて大きくなり、未成熟状態のコンスタントな活性が重要であると考えられた。次にマウスのVSPを対象として、その正確な膜電位依存性を発現実験で検証することに初めて成功した。さらに、ここで見られる活性化の電位範囲には、実際に未成熟の精子から観察される電位が収まることも明らかになった。ここでVSPの電位依存性を変化させる変異条件を同定した。次に、ここで見出された条件を基に、VSPの膜電位感受性を変化させた変異体マウスを作製して検証を行った。その結果、精子の運動性やイノシトールリン脂質のプロファイルに変化が見られ、このことから未成熟精子の電位シグナルが精子の脂質環境の形成に重要であることが明らかとなった。
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