研究課題/領域番号 |
20K07284
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
下村 拓史 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 助教 (50635464)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 非天然アミノ酸 / 光生理学 / 電気生理学 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、コドン拡張法を利用して光架橋性非天然アミノ酸(pcUAA)をイオンチャネルに導入することで、特定の状態を “狙って”機能・構造解析することを目的としている。膜電位感受性イオンチャネルのモデルであるKv1.2を対象とし、pcUAA導入体に対して膜電位変化と光照射を組み合わせる。pcUAAは周囲の原子と非特異的に分子架橋を形成するので、光照射と膜電位変化を同期させその架橋形成速度を測定することで、いずれの状態で架橋形成が起こりやすいかを判別できる。高い架橋形成速度・効率を示すpcUAA導入体を見出し、その架橋体を解析することによりKv1.2の膜電位依存的な構造変化についてこれまでにない新たな知見を得ることを目指している。 pcUAAであるパラベンゾイルフェニルアラニン(pBpa)およびアジドフェニルアラニン(AzF)をKv1.2に導入するため、これらのpcUAAとともに、それぞれに特異的なtRNA/アミノアシルtRNA合成酵素をコードするプラスミドを、Kv1.2のtag変異体DNAとともにツメガエル卵母細胞の核に注入した。電位依存的な構造変化を担う4番目のヘリックス(S4)上の複数の位置にpBpaあるいはAzFを導入し、二電極膜電位固定法により卵母細胞から電流を記録したところ、いくつかの導入体においてKv1.2に典型的なチャネル電流を測定することができた。これらのうち、pBpa導入体では光照射依存的な活性変化を示すものを見出すことはできなかったが、AzF導入体で365 nmの紫外光照射依存的に電流が減少するものを見出した。これは、光照射によりAzF側鎖が架橋を形成することでS4ヘリックスの構造変化が抑えられたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はpcUAA導入体発現系・測定系の確立と、初期スクリーニングを行った。pBpaとAzFともに、先行研究と同様に卵母細胞での発現系を再現することができた。用いるtRNA/アミノアシルtRNA合成酵素をコードするプラスミドによって、内在する翻訳系との直行性が完全に担保されない可能性があり、実際にAzF導入体の場合、AzFを卵母細胞内に導入していないにも関わらず、Kv1.2電流が生じることが確認された。しかしながらこの時の電流量はAzFを導入した場合と比べて極めて小さいものであり、AzF存在下ではほとんどのKv1.2はAzF導入体であると思われる。以上のような技術的な問題はあったものの、基本的にはpcUAAを高効率で導入できる発現系を確立することができたと考えている。また、S4の初期スクリーニングにおいて、光照射依存性を示すAzF変異体を見出すことができたため、光照射の実験系も機能していることが確認できた。以上により、計画は順調に進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
pcUAA導入位置について、S4ヘリックスについてより網羅的なスクリーニングを行う予定である。光依存性が見られた導入体については、脱分極状態あるいは過分極状態のいずれかに保持しているタイミングで光照射し、それによる電流変化の速度・効率から、どの状態で架橋形成が起きるかを調べる。これにより特定の状態で高効率に架橋形成を起こす変異体を同定し、さらなる機能・構造解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は導入するpcUAA量を最適化するなどして、より少ない経費で結果を得られたため、次年度以降、より精密に実験を進めるための物品費に充てる予定である。
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