研究課題/領域番号 |
20K07285
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山口 智和 秋田大学, 医学系研究科, 助教 (30749940)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | CCR4-NOT複合体 / 脱アデニル化 / 心臓リモデリング |
研究実績の概要 |
心不全病態におけるmRNA脱アデニル化因子CNOT6Lの生理機能を明らかにするため、令和2年度は下記の項目について検討した。 1)心臓リモデリングにおけるCNOT6Lと線維化遺伝子GeneX mRNAの結合:マウスの横大動脈狭窄(TAC)後心臓のRNA-seq解析にて、CNOT6L欠損によるGeneXの顕著な上昇を見出していた。RNA免疫沈降法により、CNOT6Lタンパク質とGeneX mRNAがTAC後の心臓にて強固に結合していることがわかり、CNOT6LによるGeneX mRNAの直接的な制御が示唆された。 2)TAC後心臓のRibosome profiling(RP):心臓リモデリングに伴う転写及び翻訳動態の変化を網羅的に調べるため、野生型マウスTAC後心臓についてRP解析を行った。その結果、GeneXのmRNA量及び翻訳量がTAC後24時間から1週にかけて30倍以上に増加していることが分かった。心機能が代償的に維持されるTAC後1週においてCNOT6Lタンパク発現の顕著な増加を認めており、圧負荷により発現誘導されるGeneXをCNOT6Lが負に制御することが心機能維持に重要である可能性が考えられる。 3)レニン-アンジオテンシン(RA)系におけるCNOT6Lの役割:アンジオテンシンII(AngII)の持続投与を行ったCNOT6L欠損マウスの表現型を解析した結果、CNOT6Lを欠損したマウスの心臓は野生型に比べ有意な心機能の低下と心体重比の増加を認めた。また、CNOT6L;GeneXの二重欠損では心機能が保たれ、心肥大の程度も抑制されることがわかった。以上のことから、圧負荷心不全病態においてはCNOT6LがRA系を介した制御において、GeneXの発現を負に調整し心臓のリモデリングを制御している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CNOT6L遺伝子欠損マウス、およびCNOT6L;GeneX二重遺伝子欠損マウス心臓の表現型の解析、および遺伝子発現の解析等により、圧負荷心不全病態におけるCNOT6Lの生理機能として、CNOT6LがCCR4-NOT複合体の実行因子としてGeneX mRNA発現を負に制御し、心機能の代償的維持に重要な役割を担うことが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きCNOT6LによるGeneXの制御機構を明らかにすることを主軸に研究を行う。昨年度に行ったRNA免疫沈降によりCNOT6LのGeneX mRNAへの直接的な制御が示唆された。そこで、CNOT6Lが脱アデニル化(ポリ(A) 鎖長の短化)を介してGeneX mRNAの分解を制御しているのかを明らかにするために、現在PAT法のためのprimerを設計し、心臓リモデリングに伴ったGeneX mRNAポリ(A) 鎖長の変化について解析を進めている。また、機械的刺激やAngIIによる刺激がGeneX mRNA安定性にどのように影響するかを明らかにするため、CNOT6L欠損マウスより心筋細胞を単離しActD chase法を用いたmRNA半減期の解析を計画している。これと並行して、すでに報告のあるGeneXの3’UTRをルシフェラーゼ遺伝子に融合したレポータープラスミドの構築を進めており、3’UTRにおけるRNA二次構造やCNOT6LにGeneX mRNAを提示するするRNA結合タンパク質の関与についてのGeneX mRNA制御の詳細を解析する。また、ヒトの心臓リモデリングにおけるCNOT6Lの関与を明らかにするために、本学循環器内科との共同研究により、心不全患者の血液あるいは手術時の心筋生検サンプルを用いて、RT-PCR法、ウエスタンブロット法、あるいは免疫染色でCNOT6Lの遺伝子発現を解析し、病態重症度との相関や、新規心不全バイオマーカーあるいは予後規定因子としての意義を見出す。
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