前年度までに蛍光再生型の蛍光標識法であるDeQODEタグ技術とインハウスで構築した顕微鏡ハードウェアを用いて高い特異性で長時間の1分子蛍光観察系を構築し、標的分子の1分子レベルの動態を生細胞内で精密に計測できることを確認している。 本年度はこの観察系を用いて、実際にシンタキシンを初めとするシナプス関連分子の生細胞内での1分子動態を可視化解析した。種々のシナプス分子をDeQODEタグとの融合タンパク質としてCOS7細胞に発現させて、QODEプローブの負荷により標的分子を蛍光標識し、細胞内での分布が既報と同様であることを確認した。次に本観察系を用いて、シンタキシンやシナプス伝達においてシナプス後部で重要な役割を担うTarp-γ8についての1分子蛍光追跡によって時空間ダイナミクスを解析した。特にTarp-γ8はスキャホールド蛋白質であるPSD-95と協働的にAMPA型グルタミン酸受容体のシナプスへの局在を制御していることが報告されており、Tarp-γ8のPSD-95との相互作用とTarp-γ8の時空間動態との関係についての理解はシナプス可塑性の分子機構の解明に重要な情報を与える。本研究ではモデル系としてPSD-95のクラスターを形成させたCOS7細胞においてPSD-95クラスターの内外でのTarp-γ8の動態について1分子レベルでの解析を行った。その結果、PSD-95クラスターとの相互作用によりTarp-γ8の動きは大きく制限されること、さらにPSD-95クラスタ上においてTarp-γ8はほぼ静止している状態と比較的動きやすい状態を遷移しうることが明らかになった。本研究によりシナプス分子の動態の精密解析が可能になり、電気生理学計測やカルシウムイメージングなどのシナプス機能解析と分子動態解析をリンクさせて、分子動態とシナプス機能とを対応付けた解析が可能になった。
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