これまで、二価鉄による血管内皮細胞死は、ミトコンドリア障害による活性酸素産生を介した膜脂質過酸化反応によって引き起こされることを明らかにしてきた。また、HRGはこれらの反応をほば完全に抑制し、細胞保護効果を発揮することも明らかにしていた。しかしながら、二価鉄刺激からミトコンドリア障害に至る経路に関しては未だ不明な点が存在した。そこで、この経路に関して解析を行った。高濃度の二価鉄の負荷は細胞にとっては非常に強いストレスとなると考えられたため、小胞体ストレス応答反応に注目した。ウエスタンブロッティング法により小胞体ストレス関連因子の活性化状態を確認したところ、複数の因子が二価鉄刺激により活性化されていることが示唆されるデータを得た。また、その活性化はHRG処置により抑制されることを明らかにした。従って、二価鉄刺激は小胞体ストレス応答からミトコンドリア障害、更には細胞膜障害を引き起こし血管内皮細胞を死に至らしめていることが示され、HRGはこれら反応を抑制することで細胞保護効果を発揮していることを明らかにした。加えて、ミトコンドリア障害の下流シグナルにおいても活性酸素産生以外のシグナル反応を明らかにしたため報告する。それはApoptosis-inducing factor (AIF) である。以前の研究より、二価鉄刺激はアポトーシスに強く関連するカスパーゼ経路を活性化しなかった。しかしながら、今回、カスパーゼ非依存性経路であるAIFを介した経路を二価鉄が活性化することを明らかにし、HRGはこの反応を有意に抑制した。従って、二価鉄刺激は血管内皮細胞において鉄依存性細胞死として定義されるフェロトーシスとカスパーゼ非依存性アポトーシスが混在した細胞死を誘導していると考えられる。また、HRGは血管内皮細胞において、これらすべての反応を抑制し、細胞を保護していることが示された。
|