研究課題/領域番号 |
20K07299
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
行方 衣由紀 東邦大学, 薬学部, 准教授 (30510309)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薬理学 / 3次元イメージング / 肺静脈心筋 / 自動能 / 心房細動 |
研究実績の概要 |
肺から左心房に血液を送る血管である肺静脈は心筋組織を有しており、肺静脈心筋内で発生する異所性興奮が心房に伝播することで心房細動が発症する。よって、肺静脈心筋の異所性自発活動発生機序の解明は心房細動の新たな治療法開発に繋がると考えられる。これまでの研究により肺静脈心筋は正常心拍を担う洞房結節心筋と同様に内向き整流性カリウム電流密度が小さく、膜電位が不安定なために、ペースメーカー電位(緩徐脱分極)の形成を許容し、自発活動を顕在化させることを明らかにした。そこで本年度は緩徐脱分極に寄与する脱分極性電流を薬理学的に検討することを目的とした。 モルモットより摘出した肺静脈組織標本にガラス微小電極法を適用し、細胞内活動電位を取得した。ナトリウムチャネル遮断薬であるtetrodotoxinは緩徐脱分極を抑制し、自発活動を減弱させた。ナトリウムチャネルを介した電流は一過性成分であるpeak INaと持続性成分であるlate INaの2つに大別できる。そこでそれぞれを遮断する薬物を処置したところ、peak INa選択的遮断薬であるpilsicainideは緩徐脱分極には影響を及ぼさず自発活動も抑制しなかったが、late INa選択的遮断薬であるGS-458967はtetrodotoxinと同様に緩徐脱分極を抑制し、自発活動を減弱させた。一方、GS-458967は正常心拍を担う洞房結節の活動電位に加え、心房筋、心室筋の活動電位には影響を及ぼさなかった。 以上の結果より、late INaは肺静脈心筋自発活動にのみ寄与することが明らかとなり、late INaは肺静脈心筋の選択的な制御に有用なターゲット分子となりうることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、自発活動の脱分極を担うイオンチャネルの探索を行うため、ナトリウムチャネルに着目した。近年、ナトリウムチャネルを介した電流は一過性成分であるpeak INaと持続性成分であるlate INaの2つに大別できることが明らかとなった。さらに、late INa の増大によって心房細動が発症することが報告されており、現在その阻害薬が注目を集めている。しかしながら、心房細動の発生源となる肺静脈心筋細胞のlate INaに関する研究はほとんど存在しない。本年度はガラス微小電極法やvoltage clamp法を適用し、肺静脈心筋にlate INa が存在して自発活動を誘発しうること、そしてlate INa 遮断薬の処置によって自発活動が停止することを見出した。また他の組織ではlate INa 遮断薬が作用しない可能性を示唆する結果を得ており、組織の立体構造を保持した肺静脈標本に高速3次元共焦点顕微鏡法を適用し、細胞から組織レベルまでの総合的視点から、自発活動の発生を解明する必要性を改めて感じた。
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今後の研究の推進方策 |
組織レベルでの膜電位やカルシウムのオシレーションの伝播を高速スキャンよって2次元および3次元空間的にミリ秒単位で捉えることを目指す。また、late INaの増大がカルシウムのオシレーションにどのように影響を与えるのかを明らかにする。さらに組織レベルの検討においては、神経伝達物質・ホルモンの影響により自発活動の発生機序や伝播様式が変化するか否か、細胞内カルシウム動態や循環器疾患の発症と深く関連すると予想される交感神経伝達物質noradrenaline、副交感神経伝達物質acetylcholine、angiotensin II、aldosteroneなどの影響下で検討を行い、late INaとの関係性を検討する。
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