肺から左心房に血液を送る血管である肺静脈は心筋組織を有しており、肺静脈心筋内で発生する異所性興奮が心房に伝播することで心房細動が発症する。よって、肺静脈心筋の異所性自発活動発生機序の解明は心房細動の新たな治療法開発に繋がると考えられる。これまでの研究により肺静脈心筋自発活動の形成にナトリウム電流(INa)が寄与していることを報告した。ナトリウム電流は、心筋の急速な脱分極時に一過性に流れる大電流成分であるpeak INaと持続的に流れる小電流成分のlate INaに大別される。現在、治療薬として用いられているⅠ群抗不整脈薬は左心房筋などの作業心筋のpeak INaを抑制することで異常な興奮伝導を抑制し、ペースメーカー由来の刺激に従った正常な状態に復帰させると考えられている。一方、昨年度の結果を踏まえ、late INaは肺静脈心筋自発活動のような異常な電気的興奮に関与すると推察されるが、十分な検討はされていない。そこで本年度では、心房細動モデル動物での効果が確認されているNCC-3902の標的イオンチャネルを明らかにし、肺静脈心筋自発活動への作用を評価した。 それぞれのイオンチャネルを発現した細胞系にvoltage clamp法を適用し、NCC-3902 の標的イオンチャネルを検討した。その結果、NCC-3902は ナトリウムチャネルのうち、peak INaへはほとんど作用せず、選択的にlate INaを遮断した。 次に肺静脈心筋自発活動に対するNCC-3902 の作用を検討した。摘出した肺静脈組織標本にガラス微小電極法を適用し、細胞内活動電位を測定したところ、NCC-3902 は濃度依存的に肺静脈心筋自発活動を抑制した。すなわち、NCC-3902はlate INa遮断作用により肺静脈心筋自発活動を抑制していることが示唆された。
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