研究課題/領域番号 |
20K07301
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
奈邉 健 摂南大学, 薬学部, 教授 (40228078)
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研究分担者 |
松田 将也 摂南大学, 薬学部, 助教 (30783005)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ステロイド抵抗性 / 喘息 / IL-5 / 自然リンパ球 / 好酸球 / 上皮細胞 / グルココルチコイド |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、喘息におけるステロイド抵抗性獲得の分子機序を明らかにし、創薬における標的分子の候補を提供することである。具体的には、「気道上皮細胞の活性化→(TSLP産生)→ILC2の活性化→(IL-5産生)→好酸球の肺への浸潤→(TGF-β産生)→気道上皮細胞の間葉転換→気道上皮細胞のさらなる活性化」の過程が関与するか否か、さらにその過程における「気道上皮細胞および免疫細胞のGRαの発現の低下やドミナントネガティブであるGRβの発現増加」が引き起こされるか否かを明らかにすることである。 2020年度は、ステロイド抵抗性の獲得においてIL-5が役割を演じるか否か検討を行なった。すなわち、抗IL-5抗体の処置によって好酸球浸潤を強く抑制すると、喘息症状の1つである気道リモデリング形成におけるステロイド抵抗性が有意に解除された。すなわち、ステロイド抵抗性の獲得において、IL-5-好酸球の経路が関与することが強く示唆された。 つぎに、上記のIL-5の産生細胞を明らかにするため、ステロイド抵抗性喘息モデル肺からフローサイトメーターによって精製した2型自然リンパ球(ILC2)ならびに2型ヘルパーT(Th2)細胞を、気道上皮由来サイトカインであるTSLPおよびIL-33で刺激した際のIL-5産生量を比較した。その結果、TSLP/IL-33の共刺激によって、ILC2は大量のIL-5を産生し、その産生量はTh2細胞のそれに比して顕著に多かった。一方、このステロイド抵抗性喘息モデル肺由来ILC2からのIL-5産生量は、ステロイド感受性喘息モデル肺由来ILC2からの産生量に比較して顕著に多かった。したがって、ステロイド抵抗性喘息モデルにおけるIL-5の主たる産生細胞はILC2であることが強く示唆された。 以上より、本年度は、上記に示した本研究の目的を断片的に明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画において、2020年度は(1)「IL-5-好酸球の経路」がステロイド抵抗性獲得に寄与するか否かを明らかにすること、ならびに(2)「好酸球-TGF-β-上皮間葉化の経路」についての検討に着手し始めることであった。実際には、(2)については進展しなかったが、(1)については明らかにすることができただけでなく、ステロイド抵抗性喘息モデル肺由来のILC2は、ステロイド感受性喘息モデル肺由来のILC2に比較して、IL-5産生の点で顕著な高反応性を獲得していることを明らかにすることができた。この成績は、前者のILC2がステロイド抵抗性獲得に伴ういわゆる重症化の過程で何らかの形質転換をしたものと考えられた。この形質転換の本質を明らかにすることができれば、当初の研究目的を達成する上で、さらなる付加価値をつけることが可能となる。具体的な方策については【今後の研究の推進方策】の欄に記載する。
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今後の研究の推進方策 |
以下の「ILC2」ならびに「好酸球」の点から解析するとともに、これらの炎症細胞に発現する遺伝子の網羅的解析を行うことにより、ステロイド抵抗性獲得の機序に迫る。 (1)ILC2の形質転換:喘息時に肺に浸潤したILC2は、ステロイド抵抗性獲得といういわゆる重症化の過程において、気道上皮由来サイトカインであるTSLPおよびIL-33に対して高反応となる「形質転換」が引き起こされていることを明らかにした(2020年度)。この形質転換の機序を、上皮由来サイトカイン受容体ならびにその下流シグナルのアップレギュレーションの点から明らかにする。すなわち、ILC2におけるTSLP受容体およびIL-33受容体発現増強が引き起こされているか否かについて明らかにするとともに、下流シグナルであるJAK/STATの発現やリン酸化の増強が引き起こされているか否かについて明らかにする。 (2)ステロイド感受性および抵抗性のいずれの喘息モデルの肺にも顕著な好酸球浸潤が認められる。前者の好酸球浸潤はステロイド処置により抑制され、後者のそれはステロイドで抑制されない。そこで、ステロイド性抗炎症薬(グルココルチコイド)の細胞内受容体GRα、ならびにそのドミナントネガティブであるGRβに着目し、両モデル肺に浸潤した好酸球内のそれらGRの遺伝子発現量を比較する。さらに、このGRβ発現がIL-5に依存して増強するか否かを、好酸球細胞株Eol-1を用いてin vitro実験により明らかにする。 (3)両モデルから精製したILC2および好酸球の発現遺伝子をRNA-seqにより網羅的に解析し、ステロイド抵抗性獲得に関連する遺伝子の候補を挙げる。 以上の検討より、ステロイド抵抗性獲得に関わる本質の分子を明らかにし、それを標的とした創薬研究につなげていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、参加予定であったいくつかの学会が全てオンライン開催にになったことで、旅費が不要となった。また、緊急事態宣言により、研究時間が少なくなり、同時に消耗品の使用料も少なくなった。一方、これらで余った経費は、2021年度以降に主として消耗品費として使用する予定である。すなわち、当初の予想にはなかった研究成果が得られたことから、別途新たな研究を計画している(今後の研究の推進方策等に記載)ため、それらの経費として使用する予定である。
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