研究課題/領域番号 |
20K07303
|
研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
高橋 富美 産業医科大学, 医学部, 教授 (50274436)
|
研究分担者 |
石兼 真 産業医科大学, 医学部, 講師 (40470190)
井川 和宣 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (80401529)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 心筋梗塞 / 線維化 / GSK-3 / 筋線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
我が国の心筋梗塞の発症率は、高齢化率の上昇に伴って増加傾向にある。心筋梗塞発症後は、早期再灌流療法の確立により死亡率は低下しているが、梗塞心筋の修復性線維化とこれに続く心臓リモデリングによる心機能の低下が問題となっている。心筋リモデリングに伴う線維化のコントロールは、心筋梗塞治療のターゲットとして有望視されているが、現段階では“線維化抑制薬”は開発されておらず、同薬の開発が求められている。 我々はこれまでに、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK-3)の活性化作用を有する薬物が、心筋の線維化を抑制することを報告しているが、線維化の主体となる筋線維芽細胞への影響など、その詳細な機序の解明には至っておらず、臨床応用のために解決すべき課題となっている。そこで本研究では、筋線維芽細胞に主眼をあて、GSK-3活性化薬による心臓線維化抑制機序を明らかにし、臨床応用へと発展させるための基盤研究を行っている。 今年度は昨年度確立したマウス心臓の冷凍焼灼法による心筋線維化モデルを用いて、GSK-3活性化作用を持つコキシブ系薬物の心臓への効果について検討を行った。コキシブ系薬物投与群ではコントロール群と比較して、心機能の改善および心臓リモデリングの減少が認められた。さらに、筋線維芽細胞のマーカーであるα-smooth muscle actinの発現がコキシブ系薬物投与群で有意に減少しており、筋線維芽細胞への転換が抑制され、これが心臓線維化抑制につながっていることが示唆された。 また、ラット心臓より分離した線維芽細胞を用いた実験から、コキシブ系薬物がTGF-βによる筋線維芽細胞転換を抑制するというデータが得られつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①心臓由来線維芽細胞と②マウス心筋梗塞モデルを用いて、線維芽細胞から筋線維芽細胞への転換および筋線維芽細胞の機能に及ぼす、GSK-3活性化薬(コキシブ系薬物、DIF)の影響を検討することを目的としている。 今年度は①の心臓由来線維芽細胞を用いた実験から、コキシブ系薬物が線維芽細胞を筋線維芽細胞へと転換させる、最も強力なサイトカインTGF-β1のシグナルを阻害することにより、筋線維芽細胞への転換を抑制していることが示唆されるデータが得られつつある。 また。②の心筋梗塞モデルからも、コキシブ系薬物が心臓線維化を含む心臓リモデリングを改善するというデータが得られ、コキシブ系薬物が心臓線維化抑制薬として有望である可能性が示唆されるデータが得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は線維芽細胞から、筋線維芽細胞への転換メカニズムに及ぼすコキシブ系薬物の影響を検討し、コキシブ系薬物の作用機序についての検討を行う。 また、心筋梗塞モデルマウスにコキシブ系薬物を摂餌投与し、心筋梗塞作成後の梗塞巣における変化(筋線維芽細胞の出現時期、残存期間、活性化程度)について、経時的な評価を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウス心筋梗塞モデルを用いた薬物効果検証が順調に進み、使用したマウスの数が減少したので、作成に要する費用(麻酔薬・縫合糸など)やマウス購入費・飼育保管費等が予想より少なくて済んだため。次年度は、確立したモデルを用いて薬物効果の検証を経時的に行い、作用機序の詳細を検討する。
|