研究課題/領域番号 |
20K07305
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
及川 司 北海道大学, 医学研究院, 講師 (20457055)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | p53 / ヒストンH3 / EZH2 |
研究実績の概要 |
本研究は、DNA複製期のヒストンH3と相互作用するタンパク群(インタラクトーム)において、癌抑制遺伝子産物p53が、抑制性ヒストン修飾H3K27me3化を担う分子EZH2を排除する、という申請者らの新しい知見に焦点を当て、その分子的基盤とともに、上皮性維持への寄与を明らかにすることを目的としている。 本年度は、p53が存在する時にH3のインタラクトームに含まれる量が大きく増加する分子、CTDNEP1の機能解析を行った。その結果、(1)CTDNEP1は核膜及び小胞体様の細胞内構造に局在すること、(2)CTDNEP1の発現はp53の存在によりタンパクレベルで安定化されること、(3)CTDNEP1の発現抑制は、p53の発現抑制と同様にH3K27me3の核膜近傍領域への異所性蓄積を引き起こすことを明らかにした。CTDNEP1はタンパク質脱リン酸化酵素(フォスファターゼ)であり、その基質としてLipinが知られている。Lipinは核膜においてフォスファチジン酸(PA)からジアシルグリセロール(DAG)への変換を担う脂質脱リン酸化酵素であるが、その活性化には自身の脱リン酸化が必要であることが知られている。 これらのことから、p53が存在するとCTDNEP1が核膜において安定化し、Lipinは脱リン酸化されて活性化し、核膜の脂質組成がPAからDAGに富んだ状態になることが考えられる。すなわち、p53がDNA複製期にヒストンH3の動態を制御し、核膜近傍領域において異所性にH3K27me3化を引き起こす機構として、核膜脂質代謝の制御が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p53が存在しない状況でDNA複製期に見られる、核膜近傍領域への異所性H3K27me3の局在に関して、分子機構の解明につながるデータが得られている。CTDNEP1は核膜脂質代謝に関与するが、核膜脂質組成の違いによりDNA複製期依存的ヒストンH3.1の核移行、及びH3K27me3化が制御されている可能性も示唆されている。この点で当初想定されていた分子機構とは異なるが、異所性H3K27me3化が起きる機構の解明につながる新しい知見が得られつつあると言う点で、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
p53がDNA複製期にヒストンH3の動態を制御する機構として、核膜脂質代謝を制御している可能性が示唆された。そこで今後は、(1)フォスファチジン酸(PA)またはジアシルグリセロール(DAG)に特異的に結合するタンパク質ドメインを用い、核膜脂質を可視化する系を確立する(Romanauska and Kohler, Cell, 2018)。(2)DNA複製期依存的に細胞質で合成され、核内へ輸送されるヒストンH3.1と核膜脂質、特にPAやDAGとの結合能を各種脂質がスポットされたメンブレンを用いて解析する。(3)p53-CTDNEP1-Lipinの経路が機能しない時、DNA複製期に核膜においてPAが蓄積し、同時にH3.1が蓄積するか否かを超解像顕微鏡観察から明らかにする。(4)EZH2を触媒サプユニットとして持つPRC2複合体に関しても、脂質結合能を解析する。特に、PRC2に含まれるSUZ12の脂質結合特性を明らかにし、核内局在あるいはPRC2複合体形成に関して、Proximity ligation assayや超解像顕微鏡解析を行う。以上から、p53が存在しない状況でDNA複製期に核膜近傍領域で異所性にH3K27me3化が起きる分子機構を明らかにする。 さらに、異所性にH3K27me3化が起きる時、どのようなゲノム領域がH3K27me3化されているのか、ChIP-Seq解析から明らかにする。上皮細胞において上皮性を制御する遺伝子群が濃縮しているか否か、解析する。
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