研究代表者らは、p53が上皮性遺伝子発現調節領域の転写抑制性メチル化ヒストン修飾(ヒストンH3リジン27トリメチル化:H3K27me3化)を抑制し、上皮性遺伝子の発現を保障する機序を明らかにしてきた。本研究ではp53が如何にしてH3K27me3化を制御するのかを解析することを目的とし、様々ながん細胞株及び正常細胞、p53-/-MEFを用い、H3K27me3の核内局在を超解像顕微鏡(SIM)解析した。その結果、(1)p53存在時に核内にほぼ一様に分布しているH3K27me3が、p53欠失と共に核膜近傍領域に異所性に濃縮すること、(2)それが観察されるのはDNA複製期であること、(3)Proximity ligation assay (PLA)から、異所性H3K27me3が見られる時、核膜近傍領域においてH3とEZH2の分子近接が増強していること、(4)野生型p53だけでなく、転写活性の大部分を失わせたp53変異体(Txn-dead)によってもこの現象が弱められることを見出した。この核膜近傍H3K27me3の由来を確かめるべく、DNA複製依存的に合成され核内に取込まれるヒストンH3バリアントH3.1と、DNA複製非依存性ヒストンH3バリアントH3.3の特異抗体を用い、それらの局在をSIM解析した。その結果、DNA複製期に核膜近傍領域に蓄積する異所性H3はH3.1であり、さらにPLAとSIMを組み合わせた解析から、このH3.1はヌクレオソーム状態にない(単量体である)ことが示唆された。この分子的詳細を解析する過程で、p53が存在しない状況では核内においてジアシルグリセロール(DAG)に比べフォスファチジン酸(PA)が増加し、DNA複製期依存性ヒストンH3バリアントH3.1が核内へ侵入する際、核膜近傍領域に蓄積し、そこで異所性にH3K27me3化されることを明らかにした。
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