レット症候群は女児にのみ発症する進行性の神経発達障害であり,その原因遺伝子としてMeCP2遺伝子が同定されているが,MeCP2の機能が多様であることからレット症候群の発症メカニズムの解明には至っていない。また,治療法の確立に関しても,MeCP2遺伝子の重複が同様な神経発達障害を引き起こすことから,既存の遺伝子治療技術では難しい。こうした中,最近,思春期突発性側湾症の原因遺伝子であるLBX1が,MeCP2のターゲット遺伝子であることを明らかにした。興味深いことにLBX1欠損マウスで,側弯や呼吸不整などレット症候群の臨床症状と一致が認められる。そこで,本研究では,MeCP2-LBX1転写制御系の下流遺伝子を同定するとともに,それらの遺伝子がレット症候群における効果的な遺伝子治療のターゲットに成りうるか明らかにする。当該年度は,キアゲン社のPCR Arrayを用いてMeCP2欠損A172細胞で発現に変化の認める遺伝子をスクリーニングした。その結果,2倍以上発現が変化した遺伝子を9個同定し,さらにMeCP2欠損細胞にLBX1遺伝子を導入するレスキュー実験により,遺伝子発現が回復したP2RX7,GABRB1はLBX1の直接の制御下にあることが示唆された。P2RX7,GABRB1遺伝子の神経分化における機能を明らかにするために,Neuro2A細胞にて,それぞれの遺伝子のノックダウン細胞株を樹立した。その結果,細胞増殖能に関しては,ノックダウン細胞株とコントロール細胞間で有意な差は見受けられなかった。一方,神経分化に伴う神経突起の長さに関しては,ノックダウン細胞株において,有意な神経突起の伸長が認められた。このことから,P2RX7,GABRB1遺伝子の遺伝子量の低下は,神経突起の伸長を正に制御することが明らかとなった。
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