研究課題/領域番号 |
20K07318
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研究機関 | 公益財団法人佐々木研究所 |
研究代表者 |
中岡 博史 公益財団法人佐々木研究所, 附属研究所, 部長(移行) (70611193)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 子宮内膜 / 癌関連遺伝子 / 体細胞変異 / クローン性増殖 / トランスクリプトーム解析 / 子宮内膜症 / 子宮体癌 / 卵巣癌 |
研究実績の概要 |
子宮内膜組織における最小の機能単位である腺管を単離し、DNAとRNAを同時に抽出し、次世代シーケンサーを用いたゲノム解析およびトランスクリプトーム解析を行った。結果として、正常子宮内膜の上皮細胞において、がん関連遺伝子に体細胞変異が高頻度で認められることが分かった。特に子宮内膜症関連卵巣がんや子宮体がんで高頻度に体細胞変異が認められるKRAS、PIK3CA、FBXW7、PPP2R1A、PIK3R1、ARID1Aに多数の変異が同定された。さらに、同一の変異クローンに由来する上皮細胞が子宮内膜の広範な領域を占有していることが分かった。 子宮内膜における変異クローンの増殖メカニズムを明らかにするため、三次元イメージング解析を行い、子宮内膜基底層付近に網目状構造が存在することを明らかにした。さらに、網目状構造を共有する腺管が同一祖先の細胞クローンに由来することを示し、子宮内膜組織における上皮細胞の空間的増殖メカニズムに基底層付近の網目状構造が関与していることを実証した(Yamaguchi & Nakaoka et al., Nat Commun 2022)。 また、PTENの微小挿入変異とPTENが位置する10番染色体でcopy neutral loss-of-heterozygosityを呈する変異クローン等、一見正常な子宮内膜において染色体不安定性を呈する腺管が低頻度ながら認められた。正常子宮内膜において子宮体癌へと悪性転化する可能性のあるシビアなゲノム異常を有する変異クローンが存在することが分かった。 空間的情報を保持した状態で採取した腺管のトランスクリプトーム解析によって、がん関連遺伝子変異を獲得し、空間的に増殖する変異クローンの分子特性について検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常な子宮内膜において、同一の体細胞変異を有する細胞クローンに由来する腺管が空間的に離れた位置に存在することに着目し、3次元イメージング解析を取り入れることで、子宮内膜基底層付近の網目状構造を起点として、同一の細胞クローン由来の腺管が占有する空間を拡げ、進展していくという、子宮内膜組織という三次元空間において細胞クローンが蓄積・増殖していく新規な生物学的メカニズムを解明することができた。我々の研究成果は子宮内膜に特有な空間的クローン性増殖メカニズムを理解するための重要な知見となり、トップジャーナルに成果を報告することができた(Yamaguchi & Nakaoka et al., Nat Commun 2022)。 20代~50代の女性37名から採取した1,311本の腺管に対して、112の標的遺伝子もしくは全ゲノムを対象としたシーケンスを実施し、世界最大規模のシーケンスデータを構築できた。その結果、一見正常な子宮内膜において、子宮体癌の特徴である染色体不安定性やマイクロサテライト不安定性を呈する腺管が低頻度ながらも存在することが分かってきた。体細胞変異プロファイルとトランスクリプトーム解析を統合することで、正常子宮内膜における癌化の初期イベントに関する新規な知見が得られると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
我々が確立した子宮内膜における単一腺管シーケンス技術のメリットは、空間的位置情報を保持した状態で腺管を分離した上で、DNAとRNAを同時に抽出し、次世代シーケンサーを用いた解析を実施することができる点である。一見正常な子宮内膜組織において、空間的に増殖している変異クローンと局所に留まっている変異クローンの分子生物学的特徴を捉えるために、ゲノム解析による体細胞変異プロファイルとトランスクリプトーム解析による網羅的遺伝子発現プロファイルを統合したオミクス解析を行う。特に、同じ癌関連遺伝子変異を有する細胞クローンでも、子宮内膜という空間において、局所に留まっているクローンと、広範な領域に増殖しているクローンが存在している。これら変異クローンの分子表現型の違いを明らかにすべく、トランスクリプトーム解析を行う。さらに、子宮体癌の特徴である染色体不安定性やマイクロサテライト不安定性を有する腺管における遺伝子発現パターンを同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は研究成果の論文投稿およびリバイズに取り組み、成果を国際学術雑誌に報告できた(Yamaguchi & Nakaoka et al. Nat Commun 2022; Revathidevi et al. J Hum Genet 2022)。論文化に集中していたため、直接経費の使用が遅れてしまった。2022年度にトランスクリプトーム解析を重点的に実施するために研究費を利用したい。
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