研究課題/領域番号 |
20K07321
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
島 弘季 東北大学, 医学系研究科, 助手 (00448268)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | S-アデノシルメチオニン |
研究実績の概要 |
細胞内メチル基供与体S-アデノシルメチオニン(SAM)は細胞の生存に必須の代謝物であり、その細胞内産生量は厳密に制御されている。そのための機構の一つとして我々は、哺乳類SAM合成酵素MAT2AをコードするmRNAの安定性のフィードバック制御を見出した。ここで生じる疑問は、なぜSAM産生は厳密に制御されなければならないのか、特に、過剰なSAM産生を避ける理由は何か、ということである。 HeLa細胞の培地にSAMを添加すると、濃度依存的に細胞の増殖が阻害され、形成されるコロニー数が減少する。ここで生き残った細胞には、多核あるいは巨大核や変形した核を持ったもの、通常の細胞に比べて扁平なものが多く現れた。このような細胞は、SA-β-Galアッセイにおいて陽性を示した。これらの表現型は、放射線や抗がん剤などによるストレスに晒されたがん細胞において誘導される、いわゆるpolyploid giant cancer cell (PGCC)の特徴である。このことから、過剰のSAMは細胞にとって高度のストレスであることが考えられる。 MAT2Aの他生物種におけるオルソログを安定発現するHeLa細胞をレトロウイルス感染によって作出したところ、これらの細胞でもPGCCの誘導が見られた。またこの細胞のタイムラプス観察では、細胞分裂期においてcytokinesisが正常に完了せずに多核の細胞となる現象が見られた。MAT2Aと他生物種オルソログでは、調節サブユニットMAT2Bとの相互作用に差異があり、免疫蛍光顕微鏡の結果ではMAT2Aが核内に局在するのに対してオルソログは細胞全体に分布するという違いがあった。このことから、SAM産生には空間的な制御もなされることが重要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 野生型のHeLa細胞とSAM耐性細胞の定量的プロテオミクスを行う予定であったが、質量分析計の不調が続いている。再稼働が難しい場合は、RNAシークエンスとウエスタンブロットを併用する。
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今後の研究の推進方策 |
外部からのSAM投与のみならず、制御サブユニットMAT2BによるSAM産生の制御が及ばないと考えられる他生物種のSAM合成酵素オルソログが細胞にとって何らかのストレスとなる可能性が考えられることを踏まえ、今後の研究を展開する。その際は、合成酵素の細胞内局在が異なることを念頭に、ヒストンメチル化と遺伝子発現への影響や細胞分裂装置への影響および細胞内ROSに関する影響を検証する。
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