研究課題/領域番号 |
20K07325
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高津 宏之 京都大学, 薬学研究科, 研究員 (70360576)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ATP8B2 / 知的障害 |
研究実績の概要 |
重篤な知的障害の患者の網羅的遺伝子解析から、ATP8B2の変異に起因する可能性の高い患者の存在が複数明らかとなった。マウスでATP8B2の発現分布を定量的に調べたところ、トランスクリプトーム解析を基に作製されている既知のデータとは異なり、脳組織での発現が非常に高いことが明らかとなり、知的障害とATP8B2変異の相関が強く疑われた。これまで私は、ATP8B2がホスファチジルコリン(PC)を細胞膜の外葉から内葉へと特異的にフリップするフリッパーゼであることを細胞生物学レベルで示してきた。そこで、本研究では患者由来の変異を導入したATP8B2がPCフリッパーゼとしての機能に異常をきたすのかを検証するとともに、 ATP8B2の脳での分子レベルでの働きを突き止め、知的障害とATP8B2の機能の関係性を明らかにすることを目的としている。令和3年度までに、以下の4項目に関して研究を遂行した。定量PCRにより、組織・細胞レベルでのATP8B2の正確な発現の分布と量の把握。知的障害患者由来の変異を導入したP4-ATPase遺伝子の作製とその安定発現細胞の樹立。ATP8B2変異体のタンパク質レベルでの様々な発現解析。フリッパーゼ活性の異常の有無の検証を基本とした酵素学的解析。しかしながら、本研究進行中に重大な問題が発生した。これまで、登録されていたATP8B2のa-isoformとされていたものが公的に削除された。そのため、一部遺伝情報の異なる他のisoform、(c)や(e)をクローニングし直して、改めて安定発現細胞を樹立した。その過程で、シャペロンとして機能するCDC50AとATP8B2との関係性が他のP4-ATPaseとは少し異なることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から、ATP8B2として扱ってきたのは、a-isoformとして登録されていたものであったが、突然その遺伝子情報が削除されたことに気付いた。つまり、ATP8B2のa-isoformとされていたものは公的には存在しない、と判定されたものと考えられた。そのため、N末端の一部遺伝情報の異なる他のisoform、(c)や(e)をクローニングし直して、改めて安定発現細胞を樹立した。ATP8B2の生化学的性質を調べる過程で、シャペロン様のCDC50Aとの結合が、他のP4-ATPaseとは少し異なることを新たに見出した。知的障害患者で見られるATP8B2の変異との関係性については現在検証中である。また、新たに作成したATP8B2の安定発現細胞株でのフリッパーゼ活性の検証も進行中である。それから、神経伝達物質の分泌とATP8B2との関係を調べるために、新たに神経細胞株SH-SY5Yを購入した。しかしながら、細胞の扱いがよりデリケートで本実験目的にはあまり向いていないことが判明した。そこで、代替案として、内分泌細胞のBON細胞を用いて、神経伝達物質などの分泌とATP8B2との関係を調べていくことにした。そのための準備として、NPY(ニューロペプチドY)に蛍光タンパク質を融合させた発現ベクターを新たに構築した。
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今後の研究の推進方策 |
ATP8B2の新たな遺伝子のクローニングも終わり、知的障害と関連のありそうな変異の導入も完了し、新たに安定発現細胞も樹立できた。ATP8B2と他のP4-ATPaseとの間で、CDC50Aとの関係など、基本的な生化学的性質が少し異なることが分かってきたことから、知的障害に関連した変異体の解析の前に、ATP8B2自体の性質をもう少し深堀する必要が出てきた。そのため今年度は、ATP8B2自体の性質を探りつつ、変異体の解析も同時に進める方針である。また、これまでの構想では神経系の細胞を用いる予定であったが、細胞の性質上難しことが判明したため、代わりに内分泌細胞のBON細胞を用いて、神経伝達物質の分泌とATP8B2の関係をしらべる計画である。
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