重篤な知的障害の患者の網羅的遺伝子解析から、ATP8B2の変異に起因する可能性の高い患者の存在が複数明らかとなった。前年度までにATP8B2のisoformの登録抹消問題があったため、新たにATP8B2(e)をクローニングし直して、以下の3項目に関して研究を遂行した。①知的障害患者由来の変異を導入したP4-ATPase遺伝子の作製とその安定発現細胞の樹立。知的障害患者から見出されたATP8B2(e)の変異は、R549Q、G759S、N817Sの3つであり、いずれの残基も他のP4-ATPaseでもよく保存されていることが判明した。そこで、ATP8B2だけでなく、ATP8B1およびATP11Cでも相同の残基に変異を導入し、その発現細胞を作製した。ただし、ATP8B1のGS変異体だけは発現が悪く、安定発現細胞を得ることができなかった。②ATP8B2変異体のタンパク質レベルでの様々な発現解析。各変異体の細胞膜への局在に異常は見られず、シャペロン様のタンパク質CDC50Aとの結合も野生型とほぼ違いは見られなかった。③フリッパーゼ活性の異常の有無の検証を基本とした酵素学的解析。ATP8B2の変異体発現細胞のうちGS変異およびNS変異では、ホスファチジルコリン(PC)に対するフリッパーゼ活性がほとんんど欠失していることが明らかとなった。これらの変異によるフリッパーゼ活性の欠損は、ATP8B1のNS変異でも同様であった。また、基質が異なるATP11Cでも、ホスファチジルセリンに対するフリッパーゼ活性が欠失していた。しかし、RQ変異ではいずれのP4-ATPaseでも活性に大きな変化は見られなかった。これらの結果、ATP8B2で見出された知的障害患者由来の変異のうち、GS変異とNS変異は、P4-ATPase全般に共通して、そのフリッパーゼ活性に重要な残基であることが判明した。
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