研究課題
炎症メモリーは、生物種を超えて多様な細胞に存在し、生体防御および恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられるが、どの細胞に記憶されるのか、またどのような分子メカニズムで記憶されるかなど、不明な点が多い。また、マクロファージ・樹状細胞に代表される単球系細胞は、環境要因によって特徴的なサブセットへと極性化し(M1/M2マクロファージなど)、様々な病態に影響を及ぼすが、そのエピジェネティックな制御機構に関しては不明な点が多い。そこで本研究では、1)炎症メモリーの構築・維持・消去に関わる分子メカニズムの解明、2)ヒストン脱メチル化酵素KDM7に注目して樹状細胞・マクロファージのサブセットバランスのエピジェネティックな制御機構の解明を行うことで、「炎症メモリーを獲得した炎症細胞サブセットが、個体の表現型のバランスを規定する」という仮説を検証する。本年行った詳細な検討から、Cxcl1遺伝子座に存在する遺伝子群と、Cxcl9遺伝子座に存在する遺伝子群は、異なる炎症メモリーを持つことがわかった。現在、RNA-seq、ChIP-seqを行い、解析を進めている。また、M2マクロファージ 極性化の抑制因子としてK27me2ヒストン脱 メチル化酵素KDM7Aを同定した。ノックアウトマウスを用いた解析から、KDM7Aは肺線維化の抑制因子として働いていることが示唆された。また、ヒト突発性肺線維症(IPF)患者のシングルセルRNA-seq解析の結果から、KDM7Aはマクロファージにおいて、M2マーカーと相互排他的に発現することがわかった。これは、KDM7AがM2極性化の抑制因子として働くという結果が、ヒトにおいても矛盾しないことを示す。また、KDM7AがPHDドメイン付近で脂質修飾を受けることも見出しており、H3K4me3認識などKDM7Aの機能に脂質修飾が重要である可能性を検証している。
2: おおむね順調に進展している
KDM7A分子の候補因子としての同定と機能解析が順調に進んでいる。炎症メモリーの分子同定をより推進していきたい。
炎症メモリーの分子同定に人員と時間を効率よく用いて強力に推進する。
マウス樹立および飼育費用として予算を配分していたが、コンストラクト作成などに手間取り、本年度、そこにまで至らなかった。次年度は、樹立および飼育費用として、予算が必要になるので、その部分に回して使用する予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
PLoS ONE
巻: 17 ページ: e0262488
10.1371/journal.pone.0262488.
Cellular and Molecular Immunology
巻: 18 ページ: 1437-1449
10.1038/s41423-020-00559-7.
http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/np114/
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20201013
https://www.juntendo.ac.jp/news/20201013-03.html